部屋とYシャツと私と洋介と純と受験と謎かけ(コンテスト用)

あきらさん

第1話

「子供の頃、黒服の人がたくさん居た時があって、凄いボディーガードの数だなぁと思ってたら、じいちゃんの葬式だったんだ」

「何の話!? 洋介、大丈夫か!? 俺らこれから受験だぞ!! 勉強しすぎて頭おかしなったんか!?」

「そうかも知れん」


 僕と洋介は幼なじみだ。

 お互いバカだが、同じ高校に行こうと言って、必死で地元の三流高校を受験する事にした。

 そして今日が受験日の当日。

 憂鬱過ぎて足取りが重かったが、お互いに励まし合いながらも受験会場に向かう途中なのだ。


「純。ここまできたら、もう謎かけしよう」

「どういう流れ!?」

「今さら足掻いても、しょうがないからとりあえず謎かけしよう。その方がリラックスできるから」


 洋介は一度言い出したら絶対に引かない。

 謎かけをした所でリラックスできるとは思わないが、何故かやるしかないという空気になってしまった。


「鏡とかけまして」


 いきなり始まった!


「か……かけまして!」

「温かくなる前のホッカイロと説きます」

「その心は?」

「どちらも食べれません」

「いや、それ何か違う!! 謎かけってそういうのじゃない!!温かくなってもホッカイロは食べられないし、何かもっとうまい事言う感じにしないと!!」


 よ……洋介は謎かけの意味を分かってるのだろうか?


「シャーペンとかけまして」

「かけまして!」

「書けません」

「それ、芯が入ってないだけじゃん!! だから、謎かけってそういうのじゃないの!!」


「納豆のパックに入っているタレとかけまして」

「か……かけまして!」

「かけません」

「だから、お前の好みは知らねーよ!! 納豆は醤油派なの!?」


 絶対に洋介は謎かけの意味を分かっていない!!


「鉛筆で書いた字とかけまして」

「かけまして!」

「うちのおばあちゃんと説きます」

「その心は?」

「消しゴムで消せます」

「嘘つけ!!」


 もはや何でもアリか!!


「付き合って5年の恋人同士とかけまして」

「かけまして!」

「うちのおじいちゃんと説きます」

「その心は?」

「すでに冷えきっています」

「死んでるー!! じいちゃん死んでるって!!」


 最後の謎かけはうまい事オチたが、もちろん僕達は受験にも落ちた……


◇◇◇


「俺は、やるだけの事はやってきた!地獄谷じごくだに山籠やまごもりをし、血反吐ちへどを吐きながら特訓をした結果、この鋼のような肉体を作り上げたんだ!今日という今日は、絶対に勝ってやる!!」

「どうした洋介! 今日も受験だぞ! まさかお前、この三日間連絡が取れないと思ったら、山にこもって体鍛えてたんか!? また頭おかしなったんか!?」

「すまん、純。頑張り方、間違うた……」


 先日、地元の三流高校の受験に落ちた俺達は、今度は滑り止めを受験する為に、これから四流高校を受験しに行く所なのだ。

 前回、本命高校を受ける時に、勉強し過ぎて頭のおかしくなった洋介は、リラックスする為に突然謎かけをやり出して、歯止めが効かなくなり、案の定受験に失敗してしまったのだ。


「純。俺……昨日、変な夢を見たんだ」

「どんな夢だよ」

「三日間、徹夜してる夢」

「入り口から分かりにくい!! 寝てたのか起きてたのか良く分からん!!」

「それまでの三日間、山籠やまごもりしてて全く寝てなかったんだけど、昨日最後の日にやっと寝れたと思ったら、三日間徹夜してる夢を見たんだ」

「何か、ややこしいな!!」

「でも、夢の中での俺は、それはもう無敵だった」

「無敵? 誰にも負けないほど強かったのか?」

「そう。どんなカルボナーラでも、一発で言い当てる事が出来たんだ」

「利きカルボナーラ界で!? そもそもそんな戦い、この世界に存在すんの!?」

「ナポリタンとペペロンチーノの区別はつかない俺だが、カルボナーラだけは、何処の店の誰が作った何ボナーラかすぐに分かったんだ」

「何ボナーラって何!? ナポリタンとペペロンチーノの違いも、普通分かるでしょ!? それに洋介って、そんなにカルボナーラ好きだったっけ?」

「ひでぇ!! こんなに長い付き合いなのに、俺の好みも知らないなんて!! 俺が好きなのは、西川 貴教と 西川 史子あやこと西川ヘレンだ!!」

「何でそんなに西川好き!? 結局カルボナーラが好きか分かんないし!!っていうか、俺達出会ってから、まだ1ヶ月くらいだからね!!」

「じゃ、純の好きなものは何なんだよ!」

「俺が好きなのは、SLAM DUNKとポニーテールの女の子とあとは………洋介、お前だよ」

「純…………俺はポニーテール似合わないぞ」

「知ってるよ!それと、言ってなかったけど、実は俺の名字も西川なんだ」

「それで夢の続きなんだけど……」

「流すな!! 俺のせっかくの告白を流すんじゃない!! 流すのは、そうめんだけにしとけ!! 」

「流すのは、そうめんだけにしとけ?………………純、そのそうめんの話、もう少し詳しく聞かせてくれないか?」

「そこは流せ!! 流しそうめんって言ったのは、ただの例えツッコミなんだから、そんなに話広がらない!! 変な所に食い付かないで!! 」

「変な所に食い付く?……その話、もう少し詳しく……」

「だ〜か〜ら〜!!!」


 結局俺達は、受験前にバカ話をし過ぎて、四流高校にも落ちてしまった……


◇◇◇


時代ときは2820年。

 500年前に一度世界が崩壊し、人類は新たに文明を築いた。

 その過程で1人の天才が現れる。

 その男はこの世界の頂点に立ち、世界の全てを牛耳っていた。

 その男の名はマーカス・アレン。

 彼が成し遂げた功績は大きく、いろいろな事で社会に計り知れない影響を与えた。

 そして20年前に彼は亡くなった。

 彼が残した功績の中で、一番大きかったものは、ある一つの薬を開発した事である。

 その薬はあらゆる凡人を天才にし、どんなに頭の悪い人間でも、IQ240を超えるほどの頭脳の持ち主にする事が出来るという代物である。


 そう。

 彼が作り上げたのは、まさしく『バカにつける薬』なのである。

 その薬を服用した彼の弟子は今でも数人現存しているが、彼らでもその薬を作り出す事は難しく、IQ500とも言われていたマーカス・アレンが作り出した薬を再構築する事は出来なった。

 そこで世界では、残り少ない薬の争奪戦が行なわれ始める。

 バカにつける薬を奪い合う為に、高IQを持つ者同士の戦いが繰り広げられるのだ……………………



 ……………………という、物語を書きたいんだけど、どう思います編集長?」


「って、何の話!? 洋介、大丈夫か!? 俺、編集長ちゃうぞ!! 導入が凄過ぎてついていけなかったけど、また勉強し過ぎて頭おかしなったんか!?」

「そうかも知れん」


 どっちかというと、賢くなった気もするが……

 本当にそんな物語が書けるのであれば、絶対に見てみたいと思ったが、俺達はこれから滑り止めの滑り止めである、五流高校を受験しに行く所なのだ。

 巷では、名前さえ書ければ受かるとまで言われているその高校は、もはや俺達にとって最後の砦なのである。

 どうしてもここだけは落ちる事が許されない、人としての限界領域を試される受験でもあるのだ。


「洋介。自分の名前書く練習してきたか?」

「してきた。何回もしてきた。」

「よっしゃ! 今日は他の問題なんか気にしなくて良いから、とにかく自分の名前だけは書くんだぞ!」

「わ……分かった」

「そういえば洋介。お前、自分の名字言うの嫌がってたけど、何て名字なんだ?」

淀川よどがわ 佐衛門丞さえもんのじょう 菊之介きくのすけ 五郎丸ごろうまる 時宗ときむね……洋介って言うんだ」

「ながっ!!!」


 っていうか、ヤバい!!

 まさか、洋介の名字がそんなに複雑だったとは!!


「一応、書いて書いて書きまくったけど、10回中1回くらいしか成功した事がないんだ」

「そんな……」


 絶望的だ……洋介にとってはH難度くらいの成功率だ……


「名字は全て書けるんだが、洋介の洋の字が、横線が二本だったか三本だったか、いつも分からなくなってしまうんだ」

「そこー!? 書けない所そこなの!? 三本!三本!迷わず三本書け!!」

「でもここは日本だぞ?」

「だから、ややこしい解釈すなー!! こんな所で、変な愛国心出さないで良いから!!」

「わ……分かった」


 洋介はやっと納得したようで「三本、三本……」とブツブツ言いながら、試験場に向かって歩いていた。

 俺は洋介が考えた物語が気になり、試験に集中できなそうな気もしたが、バカにつける薬が欲しかったのは、洋介本人だったんではないかと思い、洋介の肩を抱きながら一緒に戦場に向かうのだった。


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部屋とYシャツと私と洋介と純と受験と謎かけ(コンテスト用) あきらさん @akiraojichan

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