鷺宮さん、謀る
「ねえ、犬井くん。ちょっといいかしら?」
玲瓏で知性的な少女、鷺宮麗香はそう言って犬井を手招きする。
「はい、なんでしょう鷺宮先輩」
名を呼ばれた小柄な少年、犬井誠人は、主人に呼ばれた犬のように鷺宮の側へと駆け足で近寄る。
「犬井くん。いつも私に付き合わせてしまっているでしょう? だから、たまにはご褒美でもと思って。ほら、手を出して」
「は、はい」
鷺宮は犬井の手に何かを握らせた。
それはシンプルでリボンのついた、純白の。
「ぱ、ぱぱ、ぱぱぱ」
「ええ、パンツね。それともパンティと言った方が好みかしら?」
鷺宮は事もなげに名称を口にする。
それとは対照的に、犬井の顔は真っ赤に染まっていた。
「あ、あの、これ、お、お返ししますっ! う、受け取れないですよ!」
「……そう。私のパンツなんて押し付けられても、むしろ迷惑だったわね。ごめんなさい」
ここぞとばかりに、鷺宮はしょんぼりとしてみせた。
その様子を見て、犬井は慌てて口を開く。
「い、いや、あの、そういうことじゃなくって、ですね。だって、その、……もらってもどうしたらいいか」
「あら、私のことを想ってシてくれてもいいのよ? 匂いを嗅ぐでも、擦り付けるでも、好きに使えばいいじゃない」
「……っ!?」
犬井は頭から煙を出して、固まってしまった。
そんな犬井を見て、鷺宮は笑う。
「ふふふ。それにしても、ただの布に性的興奮を覚えるだなんて、男の子って本当に変な生き物ですね」
「た、ただの布って。……だってこれ、鷺宮先輩の」
「ええ。私が購入した、新品のパンツね。私が買ったものだもの、私のパンツと言って差し支えないでしょう?」
「……そう、ですよね。あ、あはは」
へなへなと犬井の体から力が抜けていく。
自分の謀りが成功したのを見て、鷺宮は満足気な笑みを浮かべた。
「贈り物、喜んでいただけたようでなによりです。まあ、これは冗談として、後日また別の……きゃっ!?」
よほど悦に入っていたのか、鷺宮は足元がお留守だったようで、盛大に転倒してしまった。
その拍子にスカートがめくれ上がって、中のものが露わになる。
レースのあしらわれた黒い下着、パンツが晒される。
「……っ!」
ばっ、と音が出る勢いで鷺宮はスカートを正した。
その顔はひどく真っ赤だった。
「……犬井くん」
「……はい」
「……見た?」
「…………はい」
「っ、馬鹿ぁ……」
「そんな、不可抗力ですよ。それに、パンツなんてただの布なんだから問題無いじゃないですか」
鷺宮は目を潤ませて言った。
「……嫌よ。だって恥ずかしいじゃない」
小説未満のエトセトラ 0013 @rainyrainyrain
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