触りっこ





「で、頼みたいことってなんなんだよ、空」




 俺、大地は、幼馴染の空に呼び出されて、彼女の部屋に来ていた。


『頼みたいことがあるから』と。


 それが一体どんな内容なのかを聞いても、『その時に話すから……』と言葉を濁されるばかりだった。


 それで要件もわからないまま、呼ばれて飛び出て今に至る、というわけだ。


「あー、うん……、えっと、ね……」


 部屋の主の、空はもじもじと言い淀む。


「おう、なんだよ。言うだけならタダなんだから言ってみ。聞くだけなら聞いてやるさ」


 いつまでも要件を切り出さない空に、その『お願い』の内容を言葉にするよう促す。


「……あー、うー、でも」


 それでも空は躊躇ったまま、踏ん切りがつかないようだった。


「……じゃあ帰るぞ」


 俺は痺れを切らしたかのように、そう吐き捨てて、腰を浮かせた。


「ま、待って!」


 空は立ち上がった俺の袖を引いた。


「あ、のね」


 俺を留めると、ようやく意を決したのか、空が『お願い』を口にする。




「大地くんの……お、おちんちんを見せて欲しい! 触らせてほしいの!」





「……………………は?」


 思考が停止する。


 今、空はなんて言った……?


 俺が固まったままでいると。


「あれ? ちゃんと伝わって無い? 言い方が悪かったかな。えっとね、大地くんのぺに……」


「いや、わかってるから! 伝わってるから! 言い直さなくていいから!!」


 慌てて空の口を塞ぐ。


「すぅ……はぁ……」


 呼吸を整えて、頭を少し冷静にさせる。


「……とりあえず聞く。なんでだ?」


 幾分か平静さを取り戻した俺は、理由を聞いてみる。


「えっと、私、趣味でマンガを描いてるのは知ってるよね?」


「おう」


「それで、なんというか、そういう絡みのシーンも描いたりしなくもないといいますか」


「……おう」


「でも、私は一応女なので、その、男の人のがどうなってるかわからないわけで」


「……」


 なるほど。まあ、言い分がわからないでもない。


 でも。


「嫌だ」


「ふえぇ?」


 ふえぇ、じゃない。当然だ。


「だいたい。そういうマンガを参考にすればいいじゃないか」


「マンガじゃ、ちゃんとわからないもん。本物を確かめなきゃ納得したものは描けないもん」


「じゃあ、そういう動画で見ればいい」


「ぼかしがかかっててわからない」


「ならダビデ先生のモノを拝見するとか」


「……さすがに私でも、あれより大きくなるってわかるよ……」


「……そうか」


 普段は気弱な空だが、マンガのこととなると妥協を知らず、頑固で融通がきかなくなる。


 説得して断るのは難しいだろう。


 ならば。


「空の言う通りにしてもいいが、条件がある」


「……条件って?」


 条件。それは。


「俺だけ見せたり触らせるのは不公平だ。だから、空も俺におっぱいを見せて、触らせてくれるのならばいいだろう」


 そう言い放って、俺は空の胸部に視線を向けた。


 空はインドアなわりに、なかなかいいものをお持ちである。


 大きくて柔らかそうなおっぱいだ。


 たわわに実った果実に、興味のない男などいるはずもない。


 まあ、でもその理想郷へ至ることはないだろう。


 だってこれは、断るための口実なのだから。


 自分が如何に無理難題を吹っ掛けたのか空にもわかっただろ――


「……わかった」


 恥ずかしそうに、顔を赤くして、俯きながら。それでも。


「……それでいいのなら、いいよ」


 空は条件を受け入れた。


「…………マジかよ」


 思わず声が漏れる。


 それが、嫌だからなのか、嬉しいからなのかは、よくわからなかった。






「じゃ、じゃあ大地くん、……脱いで見せて?」


「いやそれは、言いだした空の方から……」


 やる、とは決まったものの、どちらから見せるのかという譲り合い、というか押し付け合いが始まる。


 議論が平行線を辿るのは目に見えている。


「……じゃあ同時に?」


 このままでは埒が明かないのを察したのか、空がそう提案してくる。


「……おう」


 俺は首を縦に振った。


 二人は見せ合いのための準備を入った。


 俺はズボンのベルトを外し、空は服の上からブラジャーを器用に外していた。


「…………」


 お互い準備ができると、妙な緊張感を漂わせたまま見つめ合った。


 いつまでもこうしているわけにはいかない。


「……それじゃあ」


「うん」


「「せーのっ」」

 

 俺はパンツごと下を脱ぎ、空は服を上までめくりあげる。


「うお」


 プルンと揺れる圧倒的な存在を前に、心を奪われる。


 そこから目が離せない。


「わわ」


 空の方も、俺のモノを見て声を上げる。


「…………」


 しばらく時間が止まったように二人して固まる。


 止まった時間から先に動いたのは空の方だった。


 空が指先で俺のモノをつついた。


「……なんか、変っていうか、不思議、だね」


 そう感想を述べながら、空はつんつんと、こそばゆいような、もどかしい刺激を与えてくる。


 俺の方も遅れて動き出す。


 お返しとばかりに、俺は空の胸肉に指先を押し当てる。


「……すごいな」


 指が、適度に弾力を持った柔らかなものに包まれて沈んでいく。


 ただの脂肪の塊なんかじゃない。夢が、そこには詰まっていた。


 最初の内はお互い、恐る恐るつついてみる、という感じであったが、その内それは、触る、という行為にかわっていく。


 俺は指先しか稼働させていなかった手を、もっと大きく使うようにする。


 掌に収まらない程の空のおっぱいを、むにむにと揉んでいく。


 それだけのことで、なんだか得難い幸福感に包まれるようだった。


 一方、空は俺のモノを、感触を確かめるように軽く握った。


 そして、握っては離したり、動かしてみたりと、色々と試み始めた。


「ぐっ……」


 小さくて柔らかい手から与えられる快い刺激に、反応する。


 俺のモノは、もうすっかり膨張しきっていた。


 やられっぱなしではいられないと、俺はその山の頂きへと手をかける。


 親指と人差し指でつまんで、くにくにと先端を弄ぶ。


「……あっ、んっ」


 空の口から艶めかしい声が漏れる。


 それがより一層、俺を昂ぶらせて、もっともっと、と求めるように指先を動かしていく。


 それに合わせるように、空の、握られていた手が、小気味よく動く。


「はあ……、はあ……」


 お互い顔を紅潮させて、息遣いはひどく荒い。


「…………」


 目と目が合う。


 そして、どちらともなく目を閉じると、重なり合うように、口付けを交わした。


「んん……」


 空のくぐもった声が脳髄に響く。


 意識がとろけるほど気持ちが良かった。


 どれほどの間、そうしていただろうか。


 重なり合っていた口と口とが離れる。


 朦朧とした意識の中で、俺は言った。


「……もっと体の隅々まで、調べてみるか?」


「……うん」


 空はうなずいた。


 そして、また、俺たちはキスをした。



 そしてそのしばし後、この世に新たな地平線が生まれたのだった。



 

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