小説未満のエトセトラ

0013

猫とのじゃれ方



 ある休日。


「寧子さん」


 猫飼はソファに寝そべる寧子に呼びかける。

 

「一緒にゲームで遊ばない?」


 猫飼が手にしたゲームのパッケージを見せながら言う。


 寧子は猫飼を一瞥すると、


「……私、今、忙しいから」


 そう返すと、寧子はまたソファに寝転がってスマホを退屈そうにいじる。


「うん、そっか。ごめんね」


 寧子の反応に気分を害した風など見せず、猫飼は軽い足取りで寧子のそばを離れていく。


 猫飼はそれから、寧子のこと気になども止めていない様子で、一人でゲームをやりはじめた。


「……」


 十分後。


 寧子がちらちらと猫飼の方に視線をやっては戻してを繰り返す。


 猫飼はゲームに没頭していて、寧子のことには気づいていないようだった。


「……」


 二十分後。


 寧子はソファから体を起こして、ゲームをしている猫飼のそばに身を寄せた。


 そこでスマホをいじりながら猫飼の反応を待つが、猫飼は寧子に目もくれない。


「……」


 三十分後。


「……ねえ」


 寧子は痺れを切らしたように猫飼に言葉をかける。


「……一緒に遊んであげても、いいけど」

 

 寧子の声を耳にした猫飼は、画面から目を離さずに、言った。


「今、忙しいから。ごめんね」


 そしてまた、猫飼はゲームの方に意識を戻していった。


「……むぅぅ」


 むすっと、寧子は仏頂面を作った。


 そして。


「むんっ」


 ゲームから注意を奪うように、甘えるように、幾分乱暴に、寧子は猫飼に後ろから抱きついた。




 振り返った猫飼のその顔は、どこか勝ち誇った笑みを浮かべていた。



 


 

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