第2話 勝利と報酬

 やがて毛玉は、毛が抜けてはげちょろになり、全体に黒ずむ。

 瀕死になったもよう。

 そしてとうとうこの瞬間がやって来た。


 毛玉の動きは鈍くなっている。

 僕は回り込んで左ジャブからの右ストレートのワンツーを叩き込んだ。

 毛玉は小さく痙攣した後、ポトリと地面に落ちた。


 落下した毛玉はピクリとも動かないが、妙な変化があった。

 その体が徐々に透明になって行く。

 やがて毛玉の体は跡形もなく消えてしまった。


 そして、おおなんと!

 毛玉が消えた場所に忽然と木箱が出現したではないか。

 これは宝箱という奴ではないだろうか。


 蓋を開けると木の取っ手のようなものが突っ立っている。

 片手で掴んで引っ張り上げるとそれは何の変哲もない木の棒だった。

 長さは1mほど。

 木箱に収まらない長さだが、迷宮の宝箱だからそういうのもありなんだろう。


 棒を持って出口から寝室に戻って見たが、手には何も無かった。

 迷宮内の物は外には持ち出せないようだ。

 再度迷宮に戻ると僕の手にはさっきの棒が握られていた。良かった。



 毛玉の部屋に入り直すと、いつものように毛玉が浮いていた。

 木箱は無かった。

 これまでとは異なり、僕は棒を手にしている。

 これは武器になるのではないだろうか。


 大きく振りかぶってから棒を振り下ろし、毛玉を叩いた。

 バシッと小気味よい音がした。

 なんと一撃で毛玉は瀕死になっている。

 棒、凄い!


 もう一撃加えると、毛玉はあっけなく死んで消えていった。

 今度は宝箱はない。


 僕はこの戦闘を何度も繰り返した。

 その結果分かったことは、毛玉は5分程度でリポップするということ。

 宝箱は最初の一度きりと言うこと。


 また、実戦を繰り返すことにより、僕の棒術らしきものが多少進歩した。

 棒の速度が上がり力が乗るようになった。

 最も威力の高い打撃部位も覚えた。

 その結果、ほぼ確実に一撃で毛玉を倒すことが出来るようになった。


 延べ十数匹も倒しただろうか。

 最後の戦闘後、不意に目眩を覚えてボクは膝をついた。

 気持ちが悪い。こみ上げて来るものがあって吐きそうだ。

 体が熱い。


 しばらく耐えていると、不快感は収まった。

 体調を意識すると、今度は体が軽く力が漲る感じがしている。

 もしかしてと思ってステータスを確認した。


【レベル1→2(1UP) 命10→12(2UP) 体1→2(1UP) 魔0→1(1UP) 敏1→2(1UP) 耐性(打撃2)】

 やった!

 レベルアップしてる。


 体が1から2になったが、体力が2倍になったと言う感じはしない。

 このステータスの数字は素の数値への加算なのだろうか?

 そして魔力。これも謎だ。

 魔力が1になったといっても格別何かが出来るようになったわけではない。


 迷宮を出て現実世界に戻っても、レベルアップの効果は続いているような気がした。

 でも気のせいかも知れない。

 なんだか嬉しくて興奮してるから。

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寝室迷宮日誌 茜雲 @tomosa

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