3食 増殖する食卓

「ただいま~……」

「おお帰ったか繚左。待っておったぞ」

「はいこれお土産。『チョコパイ』」

「『ちょこ』とな!?気が利くのう♡」


チョコが好きみたいで良かった。チョコが食べられない人もいるらしいから、メメがそうだったら困るな、という心配をしていたのだ。


「む!?この『ちよこれーと』柔っこいぞ?我の知る『ちよこ』とは違うが……」

「あれ、あんまり好みじゃなかった?」

「……悔しいが美味いのぅ」


ほんと美味しそうに食べるなぁ。見ているこっちまで幸せな気分になる。


「……さて、と。お主に言うべき事がある」

「はい、なんでしょう」


急に改まってどうしたんだ。

僕がそう不安に駆られていると、後ろから何か小さいものに抱きつかれた。


「のわっ、何だ!?」

「おにぃたんだぁえ?」


ぞわっ。この一瞬で僕は、メメが言いたい事を察してしまう。


「この子を養え」

「無理です」


即答したは良いが、恐らくは食い下がるだろう。メメとはまだ知り合って日は浅いが、次の動きを予想できるくらいには親密なつもりだった。

ところが彼女は意外にも、『そうか』と言って、僕から少女(幼女?)を引き離した。


「この子は……フォルテは亡命して来たのじゃ。、帰る故郷が無い」

「……メメも、亡命して来たの?」

「少し違うが、まぁそんな所じゃの」


思っていたよりも事情は深そうだった。

僕はこの際だからと、思い切って問う。


「メメの故郷の事、僕に教えて欲しい」

「聞いて何になる?」

「僕は普通の人間だから故郷をどうにかする事は出来ないし、もちろん知って何か出来る事はない。

けれど、メメの支えくらいになら、僕でもなれるかなって」

「――――戯者たわけ。支えなぞ要らぬわ」


少し哀しそうな顔になって、メメは顔を逸らした。

すると幼女?改めフォルテが、メメの頬っぺたをつつく。


「メメたんどったの?いたい?」

「……否、大丈夫じゃて。心配せんで良い」

「…………母さんと要相談だから」

「む?」

「この家は母さんが主だから、母さんと相談しない事には決められない、って言った」

「という事は」

「……母さんが帰ってくるまでは保留。

とりあえず預かる」


僕とした事が、がらにもない事をしてしまったものだ。


「……さて、気分転換といこうか」


僕がエプロンを着用する。

いざ、さ晴らしクッキングの時間だ。




人参・シイタケ・玉ねぎをみじん切りにした後、合挽き肉・豆腐と合わせ、卵・コショウ・ターメリック・カルダモンと混ぜる。


「……ううむ?何じゃこれは」

「材料は一般的じゃないかもだけど、これが巴島家流の作り方なんだ」


ひたすらに、ストレスをごちゃついたボウルの中にぶつける。そうでもしないと、僕の貧弱な腕では力がこもりづらいのである。


パンパンパン。

十分にねたら、掌に交互に当てて空気を抜く。フライパンを熱し、このかたまりを置いて、真ん中をつついて少しくぼませる。


「まさか……我の勘が合っていれば昼頃、花納慧のレシピ本で見たのだが」

「多分合ってるよ。元々ドイツ料理だったのを、日本人の口に合うようにアレンジした料理……。子供は多分、大好きなヤツさ」


まぁスパイスがてんこもりだから、どことなくエスニックな感じがしないでもないけど。


「……それ、ハンバーグが出来たぞ」

「やはり……はんばーぐであったか……」


空腹が隠せていない。僕も何かお腹減ったな。今日は給食があまり食べられなかったので、これを昼飯としよう。


「それじゃあ、いただきます」

「いただきます」

「いただぃまー」


メメを真似てか、フォルテも『いただきます』と言った。

多分今日は母さんの帰りが早い。

そんな事をぼんやり思いながら、ハンバーグの少し焦げた所をかじるのだった。

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女神のメメと巴島家の食卓 アーモンド @armond-tree

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