第3話 そこにあるものたちへ
風は南から北へと流れていく。
人々が歩行する地上に較べて上空の風はとても大胆に、力強く吹き荒れていく。
途切れることもなく走り抜けていく風のひたむきさは、この世界の果てにいる誰かのためのものであり、その子の元へと駆けつけるために風は走り続けているのだ。
休むこともなく、力尽きることもなく、人よりも早く、そしてあらん限りの自由さで。
その鳥達は風を切り大空へと舞い上がってゆく。
聖なる鳩の群れも、邪悪なる鴉の集団も、勇敢なる孤高の鷹も。
彼らは鋭利で逞しく、そのうえ猛々しい。
力の象徴がそこに集結しているのだ。
彼らは太陽でさえ恐れない。
何処までも高く飛翔して、灼熱の太陽の内へと融けて消えてゆく。
太陽は、物言わず静かに空へと居座り続ける。
許された12時間という短い間の中で、自己の存在を証明する為懸命に輝きを放つ。
限りある制限された時の中で生きる太陽は、儚くて孤独だ。
だが、許しが出る限り太陽は毎朝空へと昇りそしてまたゆっくりと名残惜しそうに沈んでいく。
地上の植物たちは太陽の優しくてあたたかい光を愛している。
彼らにとってそれはまさに母の抱擁と同じく、生きるために必要な活力を与えてくれるものだ。
やわらかい風に押し流されて波打つ草原の若草達も、公園の外周を取り囲みひっそりと生き続ける橅の樹達も、彼らにとって太陽はかけがえのないもの大切なものなのだ。
だから、彼らは少しでもあの太陽に近づこうと、上へ上へと成長を続ける。
彼らのか細い声で囁かれる感謝の言葉がどうにか届く距離まで成長を続ける。
いつか伝えられる日が来ることを信じて。
ひとつの街はいわば、ひとつのグループである。
ひとつの集合体なのだ。
みんながつながっている感覚は感じられないかもしれないが、そこには必ず見えない糸のようなものですべてのものが結ばれている。
人と人から、人と空へと。
大空は大地へ、大地は樹木へ、樹木は風の精霊へと。
全てがひとつにつながっている。
だが、それに気がついているものは少ない。
手首に巻かれたたよりない糸から植物の枝につながっているなんて考える人間は殆どいない。
それは植物達も同じだ。
空だって風だって猫だってそう。
みんな自分のことばかりしか見えていないから、どうしてもその簡単な答えに気づけないでいる。
そしてすべては、そこに在り続ける。
活動し、脈打って、流れていく。
限りある時の中でそれぞれの生命を、それぞれの意思の元に、力強い波動を放ちながら、全ては生き続けていくのだ。
篇什の大樹 秋雨 空 @soraakisame
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