そして彼らの旅は続く
「ハルト、結局、僕たちの呪い、今回も解けなかったね……」
残念そうに、ルインが言った。
あの戦いの後、2人は聖騎士隊に事の次第を報告し、バルサローナの復興支援を各国に呼びかけるように進言した。
しかし、聖騎士見習としての2人ができるのはそこまでであり、後ろ髪はひかれつつも、彼らはかの街を後にすることになった。
今は、あの、街を見下ろせる丘の上で、休憩をとっているところだ。
「あーあ、ご飯美味しかったから、もっといたかったな」
「いつもながら、お前は本当に食べることばっかりだな」
「だってさ、もう食べること以外に楽しみないんだもん……それに、ハルトは『減るもんじゃない』とか『男同士なんだから問題ない』とか言うけど、僕のほうは合体のたびに精神がすり減ってる気がするの。だから、その埋め合わせ」
「まったくサイズの小さい男だな」
「ちょっとハルト誤解を産みそうな言い方やめてよ」
「ふふふ、何だかやっぱり楽しそうだね、君たち」
近距離からのその台詞に2人は思わず身構えた。
そこには……
「やっほー、ある時は、食堂のウェイトレス、ある時は、情熱的なお・ど・り・こさん、またある時は教会のシスター、そしてその正体は……」
「お前、今回は最初に言ったのだけだろうが」
「だめだよっハルト。本人がせっかくノリノリで言ってるんだからちゃんと最後まで聞いてあげないと。一応僕らが知らないだけで実績あるのかもしれないし」
「その正体は……聖騎士フロール・ブランコ……」
「ほら、お姉さんの顔色悪くなっちゃったし声も沈んでるし、なんかフォローしないと」
「お前に任せる」
「ひどいなぁ……こんな綺麗なお姉さんなのに」
それはマジックワードだったらしい。
落ち込みかけていたお姉さんの背筋がピンと伸びる、気のせいか、肌のつやも良くなっている。
いや、多分、なんだかんだでルインが女性の扱いに慣れているということだな、この話上の彼の立場的に、このスキルは勿体ない限りである。
「ふふ、ありがと。ルインちゃん」
「どう……いたしまして?」
「慣れ慣れしいな、何か俺たちに用か?」
「用っていうか、私も2人についていこうかなって」
「えーっダメですよ、絶対!」
「どうして?」
「だって……その……えーっと……」
ルインは必死だった。
一緒に来られたら、どう考えてもハルトとの、あの合体シーンを見まくられてしまう。
ここまで、他の聖騎士に同行を提案されないこともあったが、全て断ってきたのはそのせいだった。
さて、どう今回断ろう、ルインが悩んでいたそのとき。
「ああ、大丈夫よ。全部見ちゃってるから」
「ええっ!?」
「お姉さんも、あんなに情熱的なキス見るの初めてだったから赤面しちゃった。しかもあんな大衆のど真ん中でやるなんて、君たち勇気あるわねー」
赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面赤面……ハアハア。
どんなに表現しても、このときのルインの表情は、表現しつくせない。
気のせいか、ハルトもぷいっと横を向いたまま、全然ルインと女騎士フロールの方を見ようとしない。これ絶対……照れてる。
「でもそれよりも驚きだったのは、君たち2人は、あの伝説の聖騎士ルイン=ハルトなのよね?」
「はあ、まあ、そうです……」
「はあ、まあ、そうだが……」
聖騎士隊内では既に知れ渡っていることなので、2人は特段の否定はしなかった。
「私ね、彼に一目惚れしちゃったのさ。ねーねーこれって呪いなんでしょ。呪いを解くの私も手伝うよっ」
「はあ、まあ、そういうことならな」
「はあ、まあ、そうですね……って、ええっ!?ハルトいいの?」
「呪いが解ければ俺たち元の世界に帰れるだろう」
「それは、そうだけど……」
「よし、決まりねっ!」
喜んでハルトに抱きつくフロール。
「ちょ、ちょっと、ハルトにやめてくださいよ」
「あーら、ルインちゃん、や・き・も・ち?」
「ち、違いますっ!」
「なんかね、彼ちょっとだけルイン=ハルト様の面影がある気がするのよねー」
「離れてくださいよっ。ハルト、何とか言ってよー」
実は女性にあまり触れられたことの無いハルトは真実どうして良いかわからず、動けなかっただけだった。
ルインは、当然そんなハルトの胸の内などわからず、どう表現していいのかわからない、自分で自分が全くわからない、その複雑な思いに、ただただ、泣きたい気分だった。
二刀の転生剣士ルイン=ハルト~聖剣抜いちゃった編~ 英知ケイ @hkey
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