短編 無防備

@Karakame

無防備

「なんでお前はそう無防備なんだ。」

 スカートを履いているにも関わらず、机の上に脚を投げ出す彼女を見て言った。

「みんな見てないよぉ、私のスカートの中なんて。」

 まだまばらに人がいる放課後にこんな格好なのだ。スカート云々よりも倫理的に考えて咎めている俺の気持ちを、こいつが理解する日は来るのだろうか?

「第一、見ようとしなきゃ見えないでしょ?この格好でも。」

「…そうだな、俺がしゃがめば確実に見えるぞ。」

 前から二列目の彼女が投げ出した脚の直線上、教壇でチョークの粉を集めている俺がチョークを落としたフリでもして盗み見れば、きっと彼女の下着の色はおろか、装飾やデザインまで露だろう。


「見たい?」


 彼女はなんでもないような声で言った。周りの人に聞かれたら誤解されるだろう。そう言おうと思ったが、いつの間にか教室には俺と彼女しかいなかった。

「何色でしょうか?」と、彼女が悪戯に笑う。その笑顔は、彼女が俺を信頼しきっている証だった。

 もし俺が下世話で、変態だとか、助平だとかその類の性癖の持ち主で、それを周りに、彼女に認知されていたら、きっと今我慢することなく、彼女に注意することもなくチョークを落としたフリでもして盗み見ることができたのだろうか。


「…見ないよ」


 彼女の「無防備」は、俺の淡い恋心と自尊心の前では「完全防備」だった。

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