黄金の大樹と優しい願い

仕黒 頓(緋目 稔)

第1話 序章

 黄金色のとびが枝の一番高いところから飛び立つと、ふわりふわりと、光の粒が舞い始める。

 幹も葉も実も、全てが黄金に輝く巨大な大樹を、少し離れた場所から眺めるのが、あおぎりは好きだった。爛熟らんじゅくしているわけでも、陽光を反射しているわけでもない、大樹自体が淡く光っているのだ。そして、そこから舞い落ちる桃とも橙とも見える小さな果実が、この幻想的な光景を作り出していた。

(離れて見ているだけなら、こんなにも美しいのに)

 しかし、それを心が喜ぶまま悠長に眺め続けることは、許されない。

 周りにいたはずの最後の一人が、疾風のように横を駆け抜けていく。そう、呆けている時間はないのだ。誰よりも早く大樹の枝の下に辿り着き、ふわふわと舞い落ちる光の粒を――黄金の果実を奪い取らなければ。

 今日もまた、限られた果実を奪い合う“狩り”が始まる。


 そうして、降りしきる果実の雨が止んだ頃。

 いつの間にか、黄金色の大樹の根と若草色の下草の間に、赤い何かが落ちていた。人のような、人でないような。

(何だ……?)

 腰に果実を収めた籠袋を吊るしたまま、それに近付く。その時、絹を裂くような悲鳴が梧の耳をつんざいた。

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