日本人はつらいよ

読了してまず思ったのはウイリアム、アルフレッド共に典型的な日本人の思考傾向があるなと。
世の中のための自己犠牲、自己抑制、幸福を自ら遠ざける。
自分のサラリーマン人生の中でそれらの言葉に思い当たるところがいくつもあります。会社のための自己犠牲、輪を乱さぬための自己抑制、苦を尊び楽を恥とする。
やっていることは百八十度違いますが根本の思想に似通ったものを感じます。
この作品は日本人によって書かれたものだからこそ、この筋書きになったのではないかなと直感しています。それについて是非はありませんが、異なる文化に視座を置いてこの作品を読み込むと面白いなと思いました。
恐らく、ウイリアムは目的を達成するのに自己犠牲は必須ではなかったはずです。王になってからも体を酷使し続け、結果として自身の免疫を弱めたことが病にかかった要因かもしれません。この作品内の医療レベルではその発想自体が不可能だったのかもしれませんが、無理をし続ける理由も合理的な説明がつかない。何故、自らの健康を保ちつつ目的を達成しようとしなかったのか。何故態々人命と国家資金を消耗して継承を行ったのか。不要区画、人員の整理や練兵は十分な理由にはなりえないと思います。それは失った資金と人命に釣り合いが取れない。混乱に巻き込まれて死んでしまった人々の中には将来国に大きな利益をもたらすであろう有望な若者もいたでしょうに。まるでとってつけたような理由です。クーデターという形式で政権移行を行ったためアルフレッド死後、同じことが繰り返されました。クーデターという短絡的な手段による権力掌握の可能性を示唆してしまったからです。結果的に政権に不安定さをもたらしてしまいました。
ではなぜそうしたのか。彼は自分に相応しい死に場所を用意したかったのだと思えてなりません。死に方への拘りは、この国ではおよそ千年前から見られる特殊な考え方です。切腹の根底には自ら体を割くことで死後の名誉を守るという思想がありました。彼の場合名誉は守られませんでしたが彼の息子は暴君討伐の名誉を得ました。息子の為に命を捨てることが彼にとっての贖罪だった、とは思いません。何故なら彼は、息子が王になどなりたくないことを十分承知していたからです。大儀のためだとも思いません。何故なら今後のクーデターの種をまいてしまったからです。一つ考えられるとすれば、それはエゴです。人生の終わらせ方への拘りが、この舞台を用意する動機になったのかもしれません。しかし、個人的には、作中には説明されていない何らかの理由によりこの継承が行われることが必然であったと信じたい。個人的にはこの可能性が最も高いと思います。

非常に長く楽しませていただきました。次回の作品も楽しみにしております。

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