第8話 異世界で・・・初めて泣いた?
その表情に、『あたし』はゾクリと悪寒を感じ―――そして、
「…樹海?」
とサァーっと顔が青ざめていった。
樹海と言えばその名の通り、森が何倍にも広がった、まさに陸の海のような場所のことだ。
大き過ぎるが故に迷いやすく、運が悪ければそのまま・・・食料の枯渇や資源不足等で、死に至るところもある。
そして今日―――まさに『あたし』は、その樹海のなかに落ちて(それを彼が見ていたのかはわからないけれど)来た。しかも着の身着のまま、武器もなにも持たずに・・・だ。疑われ、警戒されるのは当たり前のことといえるだろう。
それよりもまず、樹海に落ちて無事だったことに、安心とほんの少しの恐怖を覚えた。なにせ落ちたところが湖だったし、向こうの方に山が見えたから、てっきり森のなかだと思っていたから余計に。
(あっ…ぶなかった~~~~~~!)
今更ながら、恐怖を感じて冷や汗が出てきた。
―――すると。
「…ブフッ。」
青年がまた噴き出して笑った。・・・どうやらまた、顔に感情が出ていたらしい。笑ってる彼に、『あたし』は恥ずかしくなって俯いた。
・・・けれどそれが、彼には泣いているように見えたらしく。
「お、おい。そんな泣くことないだろ?俺が悪かったからさ、その…泣くなって。」
笑いが止まって、青年が焦っているのが声でわかった。
それが面白くて、『あたし』は軽く彼の脚を殴った。八つ当たりのつもりで、けど本気ではなく冗談のつもりで。
しかし、相手はこれが冗談だと分かっておらず、ますます本気で心配してくる。
「ちょっ、八つ当たりすんなって。悪かったから、早く機嫌直せって。な?」
気配で、青年がさらにおろおろと焦っているのが分かる。それが面白くて、肩を震わせて笑いそうになった。
けど、さすがに可哀想になってきたので、そろそろネタバラシをしようと思っていた。―――というより、声をあげて笑いそうになるのを必死に止めてたから、限界が近かったのもあるが。―――
・・・そんな時、だった。
―――フワリ、と身体が暖かいもので包まれたのは。
(…え?)
驚く間もなく、『あたし』は彼によって拘束された。・・・抱き締める、という行為で。
ネタバラシしよう!、なんて思っていた頭のなかは、この一瞬で真っ白になった。
代わりに、今度はこちらが焦る番になった。冗談半分で八つ当たりをしていたつもりが、まさかここまで本気になるなんて思わなかったからだ。
何も話さない彼に恐くなった『あたし』は、声をかけようとした。ごめん、と・・・おふざけのつもりだったと、言おうとした。
―――けれど『あたし』の問いかけは、
「…っあの―――。」
「怖かっただろ?こんな
彼の落ち着いた声に書き消された。
無言のままでいると、青年はそのまま『あたし』の背中に手を回し、ポン、ポン、と優しく叩いた。
・・・それがなぜか、とても心地よくて。どこか安心してそれから・・・恐怖が、『一人』異世界に来た恐怖が、どんどん蘇ってきて。
―――気づけば、青年の腕のなかで『あたし』は、声を上げて泣いていた。青年の身体にギュッとしがみ付きながら、顔を青年の肩に埋めながら、ボロボロと泣いていた。
泣いている間ずっと、彼は抱き締めていてくれた。ポン、ポン、と背中を叩きながら・・・ずっと。
天使になったせいで、なぜかかなりモテてます!? 薄紅 サクラ @Ariel191020
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