《一時の休息》
はあ。なんで今、俺が街へ全力疾走しているのかというと、話はさかのぼる。
………。
俺がブライダルベール城に行ったその日。家にあった食料は底を尽きた。頭のいいホワイトウルフのシロだから俺は舐めていた。
俺らがいないことをいいことに、冷蔵庫の中身を全部食ったのだ。
そこからシロは飢餓になる前にどうするか考えた。
そして至った。
「なら、食べ物を探しに行こう!」
と。
そう考えたシロは昨日の夜に作戦を決行し、家を忍び出た。
それからシロはあらゆる食物店を回り、その途中で店の店主に見つかり。
そこから戦って今に至る。
「お兄ちゃああああん! シロは賢いんだから、そこ考えてよ‼‼」
「すまああああああああん! 忘れてたんだよ‼」
もちろん。俺はその時それどころじゃなかった。
だって妹がピンチなんだもん! 仕方ないじゃん‼
「頼むよ‼‼‼」
その間に街が見えてきた。確かに、戦士が剣を交えながら交差点でバトルを繰り広げている。
リアルな戦いだけあって、それを見に来る人もいたが、近づくことはできない。
キンッキンッ‼
刃がシロの発動した魔術防御によってはじかれる。
戦士もランクがBなので、このままでは皆に被害がいってしまう。どうする?
俺は考えた、走りながらも、必死に考えた。
だが、琥珀の方が答えは早かった。
「仕方ない。ここは二人で叩きのめすよ!」
「ええマジ!?」
琥珀が真面目な顔でこちらを見る。
「まじ」
そう言って頷いた。
「おーけー」
シロを見て剣を掴む。
『攻撃力上昇』
『攻撃力超上昇』
『速さ上昇』
『速さ超上昇』
即座に向上魔術をかける。
その間琥珀は、攻撃魔術をかける。
『炎獄』
シロに向けて炎の塊を放つ。
シロはそれを華麗にかわし、交戦中の戦士を倒そうと本気で襲い掛かる。
「はあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼‼‼」
そこへ一気に突進。
シロを反対側の壁まで吹き飛ばした。
シロの体が壁に衝突し、壁が粉々になる。
「シロ! 俺たちだ!! 気づけ! バカッ!!」
壁を蹴って俺に向かってくる。どうやら標的が俺に変わったようだ。
どうする? 向上魔術をかける暇がない、やばい、耐えられるか!?
そう考えているうちにシロは俺の目の前までやってきていた。牙を出して、俺に噛みつく瞬間。何かが切れる音がした。
「ン!?」
後ろで、すごい気配が漂う。真っ黒で、真っ赤な気配。
「……し、ろ? 私のお兄ちゃんに。……何をしているのかな? かな?」
あ。
と俺は思った。これは無理だなと思った。
琥珀が鬼の形相でシロを見つめる。
いつもは最高にかわいい琥珀の顔が、見せられないほどに変わった。怖い、それだけの顔に。
「ねえ、ねえ。しろ? なんでこんなことしているのかな?」
やばいぞ、やばいぞ。琥珀が怒ったぞ。止めれないよ。
「こはく! やめッ!!」
しかし、少し遅かった。
『炎の神よ、我が肉体をも糧となし、燃え尽くせ』
炎の波が辺りを包み込み、街の広場もろとも飲み込んだ。
「ろおおおおおおおおおおおおおおお!!」
シロは黒焦げになりダウンしたことを確認すると、すぐに俺は水を連想させた。
青き、白き、透明で、底のない、生命のもと。水を連想させる。
『クリエイトウォーター』
俺は大量の水を出すことに成功した。
琥珀も我を取り戻し少し焦っていたが、俺の作り出した大量の水を見て静かになった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
その水を頭上から一気にまき散らす。
すると、燃え盛っていた炎は消えて、白い煙だけがそこに残った。
「……はァ、はァ……」
「お兄ちゃん……」
そう、俺はとっさに魔術を成功させたんだ。
その瞬間歓声が巻き起こった。
「「「「「おおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」
びちょびちょの民衆が手を上げて叫んでいた。
「さすがあああ! えいゆううううう!」
「ヒィーーーロォオオ!!」
シロのことを忘れたかのように、俺が鎮火したことを大いに喜んでいた。
正直、初めてできた魔術の感動に浸ることもできないくらいみんなから言われまくった。
「ああ、もう、からかわないでくれよ……」
なんだかんだあって一命を取り止め、シロを連れて被害にあった街の人々に頭を下げて回り、残りの時間を費やして疲れが溜まった俺は、ため息を吐いていた。
それを隣で見ていた琥珀がなぜか申し訳なさそうに俺を見て、
「お兄ちゃん、ごめんなさい。私がとっさに……」
「いいって、気にすんな! 元は俺が悪いんだし」
琥珀が涙目だが、こうなってしまった元凶が俺にある。俺がしっかりシロの面倒を見ていればこうやって騒ぎにならず、結果琥珀が泣くこともなかった。本当に俺はどこか抜けていて、どこか甘いところがある。いつも、こんな風に劣等感を抱いて、みんなに迷惑をかける。だから、Dランク止まりなんだろう。
「まあなんとかなったし、いいじゃないか! お前さんのせいではあるかもしれないが、お前さんらがいなかったら止められなかったし、別に気にすんなって!」
おじさんが優しく元気に、気が落ちた俺に向かって言ってくれる。
「ああ、ありがとう」
それだけ言って俺と琥珀は家に帰った。
シロをしっかりゲージに入れて、俺はそのままの姿でベットインしてしまった。
…………。
意識が遠のいていく中、俺の頭には今日使った魔術のイメージ。水の輝き、流れ、その速さ、水に関する様々なものが見えてきた。使えた魔術に関して特に考えられなかった今日ではあるが、今整理してみると、脳に強くイメージできたことで俺は水を生成することができた。
正直、まだ魔術についてどんなことがあるかは理解していないが、おそらく俺の知らない未知の世界が魔術の奥に待っているだろう。俺がそう思った時には意識がなくなっていた。
小鳥の囀りが聞こえる。
ピー、ピー。チュン、チュン。
でも、そいつらに俺は疲れている気がする。痛い、なぜか頬が痛い。
なんだ。
ッ!?
俺が目を開けると俺の隣で琥珀が頬をツンツンしていた。
「わっ!?」
「え!」
琥珀が顔をびっくりしたと同時に、俺はベットから転げ落ちた。
「ぃってて」
「ごめん、お兄ちゃん……大丈夫?」
琥珀が下を向いてモジモジしている。
「ああ、てかどうしたんだよ?」
こんな状況滅多にないから嬉しさが湧き上がる。その嬉しさを押し殺して、冷静に、悪魔でも冷静に聞く。
「いや、その……」
「その……?」
「お兄ちゃんが……」
「俺が……?」
人差し指を合わせてくるくるさせている琥珀は、
「ぉにぃちゃんが……きのぅ、げんきぃなさそぅだった…………」
ああ、そう言うことか。
琥珀もシロがいないことに気づいた時は怒っていたが、その怒りがどこに言ったか分からないくらい優しく俺に呟く。
「あ……ありがとう、琥珀」
でも、だからこそ。
琥珀はすごく、優しいのだろう。
そんな優しさが尊くて、美しくて、可愛い。
「ぇへへ……」
頭を撫でると琥珀は嬉しそうに、ニコッと笑顔で微笑んだ。
この日の朝は、琥珀の優しさが身に染みた朝になった。
最弱戦士は妹のために英雄になりました。 藍坂イツキ @fanao44131406
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