終章《ただいまとおかえり》&後日談

終章ただいまとおかえり



 朝に目が覚めると俺の目の前には、なんと可愛いおへそがこんにちは! していた。

 ツルツルした太ももに、ストライプのおパンツがペタッとデリケートなところを隠している。可愛い下着が俺を呼んでいる。そんな気がした(変態)。

 それを見ていると無意識に俺の右手が伸びていき、残り十センチ、九センチ、八,七,六,五,四,三,二,一とその時、額に痛みが走った。

「お兄ちゃん? 起きて、ご飯だよ、早くして!」

 琥珀のデコピンだった。

「っう⁉ んぅ~」

 痛かったがおかげで目が覚めた。まったく今回もよからぬ夢を見てしまった。兄でも、いくら可愛いからって言っても、こんな夢はいかんな。

 てか、めっちゃデジャヴな気もする、気のせいだろうか……?

 そのあと俺はいつもとは違う白ワイシャツを着て、綺麗な真っ黒のコートをはおって、バッジ付きの黒い帽子をかぶり、黒い綺麗なズボンをはいて俺はリビングに向かった。ん? 帽子の前にズボンだって? そこは置いといてくれ。

「はぁ~~い、ご飯だよ、お兄ちゃん!」

「おっ! ありがとー」

 久しぶりの琥珀の料理を見て涙が出そうだった。ほんの数週間前の話なのにとても懐かしく感じる。それに琥珀の久しいエプロン姿も朝食以上に絶品である。

「ああーー、うまいなー泣けてくるなーーーもう最高‼‼」

「お兄ちゃん、私がいない間大丈夫だったー?」

 確かに、琥珀が心配する理由は分かる。なぜなら、俺は料理ができないからだ。

 でも、そんなに俺は馬鹿じゃないんだよ。

「大丈夫大丈夫、俺その間、城にいたから……」

 すると琥珀が静まって俺の目をまじまじと見てきた。ん? なんかついていたのか?

「えええええええええええええええ⁉」

 急に琥珀叫びだした。

「ほんとに⁉ 大丈夫⁉ 国王様に馬鹿であほな悪いことしなかった⁇」

 おい、さすがにそんなことしねえよ。てか、どういう意味だよ⁉

「まあ、お前を助けるために修業してたんだ。イキシアとか兄貴とも一緒に……」

 そう言った途端になぜか涙が出てきた。涙が頬を優しく撫でて自由落下と表面張力、摩擦などの力を含んで落ちていく。

「そっか…………って、お兄ちゃん⁉ どうしたの⁉」

「……ん? あ、ご、ごめん。思い出しちゃってな」

 すると琥珀は俺の心情を悟ったのか。

「ごめん、お兄ちゃん。わたしが、やんなきゃ……」

 今度は琥珀が泣きそうになる。

「お前は悪くねえ、兄さんだって、トレニアだって。お前のために、国のために戦ったんだ。お前が無事で、平和になるのなら本望だろう」

 俺は琥珀の涙をぬぐって笑顔でそう言った。

「…………うん、ありがとう。お兄ちゃん」

 そう言われた俺は無性にご飯を、優しい妹が作った美味しい料理を、一気に掻き込んでいた。

「っ⁉ ごホッ!」

「大丈夫⁉ もう、まったく」

 のどに詰まった。ったく、笑っちまうよ。


 なんかすっかり平和になっちまったな。あれから一週間しかたっていないのに呑気なものだ。でもそれが人間の素晴らしいところなのだろうけど。

とりあえず神竜の被害は俺の家と極寒の森くらいなのだが、森は勝手に直るはずだし大丈夫。……問題は俺の家だ。さっきまで何にも言わずに普通に妹と過ごしている感出しているが、正直、家の半分がない。さっきから妙に明るいのもそのせいだ。どうしたものか………………俺の家。

「お兄ちゃ〜ん、準備できた〜〜?」

 洗面台は潰れてなくんったので部屋で髪をとかしている琥珀の声がする。

「ああ、オッケーだぞ」

「は〜〜〜い」

 と言って出てきた琥珀は美しかった。

 白色の雪のような髪を下におろし、膝下まで伸びる灰色のスカートに灰色のブレザー、その上に小さめな黒のマントを羽織って、角が出る帽子を被っていた。その姿はとても美しくて、十二歳なのに大人のようにも見えた。とても成長したんだと感じた。

「お兄ちゃん、なんで私を見つめてるの?」

「ん⁉︎ あ、あーごめん」

 いかんいかん、まじまじと見てしまった。だって可愛いんだよ、琥珀が。

 琥珀ちゃんマジ天使‼ KMT‼

 でも正直、頭に黒の角、お尻から白い尻尾、その姿はどっちかと言うと悪魔に近い。

 ただ、それすらも凌駕する琥珀の可愛さマジで可愛すぎだよ‼‼

「まあ、私の神聖なお姿がとってもとっても可愛すぎたからだろうけどーーーーー、なーんてね」

「うん、めっちゃ可愛い、というか美しいぞ琥珀」

「――っっ⁉︎」

 俺が正直に言ったら顔を真っ赤にしてしまった。そんな照れる琥珀も可愛いぜ。

「何赤くなってんだよ笑」

「いや、別に……」

「っはははは‼︎」

 本当に可愛いやつだ。ああ、大好きだあーー‼︎ 俺は心の中で叫んだ。

「よし! じゃあ行くか!」

「う、うん」

 まだ少し赤くなっている琥珀が可愛くて惚れてしまいそうな俺はーーって、まあもう惚れているんだけど。琥珀の右手を包んで、壊れた玄関の扉を開けて協会、ではなくブライダルベール城に向かった。

 家を出てからは色んな人がスーツやコート、特別な格好で城へと向かっている。出店も出ていてまるでお祭りでもあるかのようだ。

 手の握りが強いと思って隣を見ると琥珀は少し俯いて歩いていた。まあそれもそう。この事件は琥珀がやったものだと、皆は思っているだろう。その元凶がこうやって歩いていればそれは悪い注目の的になる。

 そんな琥珀を引っ張ってここを出ようとした時、ひとりの男が声を掛けてきた。

「おい、矜恃! 琥珀!」 

 ん? と思って右を振り向くと、ラーメン屋の店長だった。

「おお、お前ら大丈夫か! 俺は心配したぞ、まあ、琥珀が無事で何よりだ」

「おっさん……」

 なんか感動して涙が出そうだったが、琥珀が限界に近いので涙を拭ってありがと、と一言言ってここを抜けた。

 その不穏の雰囲気を抜けて俺は一言伝えた。

「大丈夫、お前は悪くねえ。お前は優しくて可愛くて俺の自慢の妹だ!」

「う、うん」

 まだ顔色は暗かったが、その小さな右手を引っ張って城まで寄り添った。

 城の前まで来ると国の貴族たちもやって来ていた。もちろんその方々独自の豪華な格好で城の中へと続々入っていく。

 俺らもそこを入ろうとしたとき、

「おーーい、矜持ーー」

 後ろからよく聞く声がした。

「ん! お、虎狼!」

 俺と琥珀の後ろから虎狼と明日花さんが追いかけてきていた。

「あ! 明日花姉さん‼」

 琥珀もそれに反応して、明日花さんのもとに駆けて行った。そのまま勢いよく抱き着き、ギューッと始める。

「こはっーーて、ったく……」

「琥珀ってほんとに姉ちゃん好きなんだな」

「まあな、っていうかお前たちも来ていたのか?」

「ったりめえだ! 今日何の日か分かっていんだろうなあ! 主役さん‼」

 そんなことはもちろん分かっている。

 おっと、皆に説明していなかったな。

 そう。今日は、神竜を倒したことを祝したパーティーである。

 パーティーとはいえ今日は殉職した二人、トレニア副団長、スイレン第二分隊長とのお別れ会も兼ねてだ。あまり浮かれてはいけない。

「分かってるとも、だからこうして兄妹(きょうだい)仲良く来ていんだろ?」 

 じゃなきゃわざわざ来ないよと付け足すと、すぐに分かった顔を俺に見せて。

「ま、ならいいけど。てか、いまだに抱き着いているあの二人どうにかならないか?」

 俺たちの後ろで一分以上は仲良く抱き着いているあの二人は、その、あれだ。百合だね。百合にしか見えない。いやまあでも、俺の妹はあげないけどな。相手が明日花さんでも。

「すまないが、お二人さんそろそろ行くよ。琥珀」

 俺が近づいて琥珀の前に手を差し出すと首を横に振られた。

「おまえ、振られたなってか、奪われたな」

「なにぃぃぃぃいい‼」

 完璧に明日花さんに奪われた。

 分かったよ、もういいよ。俺は肩の重さを感じつつも虎狼と並んで城へ入った。

 やはり何度見てもこの花畑は綺麗なものだ。

 ミツバチも群がって、香りも凄く良くてもう言葉には出来ないほど。花好きには最高な庭だな。

 美しい花畑を抜けて中に入り、前と同じメイドさんに前と同じ大広間に案内された。

 メイドさんが大きな扉を開けると、中には前の何倍もの豪華な食事に、装飾が施され多くの人により賑わっていた。

「お、矜持! やっと来たか!」

 俺たちを最初に出迎えてくれたのは副団長の達也の兄貴だった。

「あ、兄貴! 久しぶりです‼」

 兄貴も俺と同じ格好……ではなく、真っ黒なスーツに赤いネクタイをしていた。まあ、かっこいい兄貴には似合いすぎてなんも言えないが……。

「お前が来ないと今日は始まんないからな、英雄!」

「え! いや、そんな⁉」

 なぜだか、神竜を倒したことで皆が俺を英雄って呼んでくるようになってしまったのだ。まったく、勘弁してほしい。それ以上に照れちまうわ‼‼

「来たか、英雄!」

 後ろから同じく黒スー、ではなく。白色のスーツに赤いネクタイをしたイキシアが半分、小馬鹿にしながら弱そうなチンピラみたいに歩いてやって来た。

「馬鹿にすんなよ、それに恥ずかしいしな‼」

「なに顔赤くして、嬉しいんだろ?」

 まあ嬉しいことは嬉しい。いやいやいやいや! やっぱ嫌だわ!

「やっぱり嬉しいって」

 すると急に真面目な顔をして、

「まあでも、お前がいなきゃ俺ら全員死んでいたさ。どうにか勝利したし、死んだあいつらも本望だろうさ」

 珍しくも真面目に天井を見上げながら言ってきた。天井と言ったが、見ているところはもっと上にあるどこかなのだろうと思う。

「でも、もっと俺が早く『アレ』使えていれば、二人とも死ぬことはなかったのに。あの死は俺のせいでもある」

 正直、少しだけ罪悪感もある。あれだけの固有魔術をなぜ最初から使わなかったのか。

「違うさ、そこは俺に責任がある。あそこでの責任者は団長である俺だよ。それにお前だってまだ未熟だったんだ、あれだけ時間がかかっても仕方がない。必然だよ」

「ああ、ありがと」

 でも、それはただの言い訳だ。俺がもっと強ければ失いはしなかったものだ。もう絶対にあんなことにはならせないために俺は絶対に強くなる。後ろで明日花さんに抱き着いてすっかり元気を取り戻した琥珀を守り抜くためにもっと、もっと、強くなる。この戦いは色々と考えさせられたさ。

「……まあ、それは置いといてだ」

「よし、時間もいいし、国王様に報告してーー始めようか!」

「そうだな達也! 英雄誕生会(パーティー)の始まりだな‼」

 おいおい。名前が、趣旨が違ってないか?

 英雄誕生会って、いったいどんな馬鹿会なんだよ。


 大広間の立ちテーブルにメイドさんからもらったジンジャー○ールを置いて、談笑を楽しむ中、奥の玉座に国王ブライが現れた。

「静まれええええええ‼‼」

 その一言でこの大広間が静寂に染まった。

 ブライの後ろにはさっきまで俺と話をしていたイキシアと達也の兄貴、他にもアストロメアや生き延びた戦士数人が手を組んで立っていた。

「今日をもって我々人間は、この長く辛い戦争に終止符を打った。神竜という名の大きな敵に打ち勝ち、本物の平和を手にした。私はこの日を祝したい」

「また、私たちに、この国に勝利を届けてくれた戦士たちにも感謝をしたい」

 ここから授賞式が始まった。この戦争に参加した戦士に国王が戦士栄誉賞を授与し、国任命の最強戦士よりも上の階級、神竜殺しの戦士という地位を与え、神竜殺しの戦士団という組織GKWにも就くことになった。(これはちなみに、GOD・KILL・WARRIORの略である。)

 それにもちろんこの俺。最弱戦士、矜持=ラナンキュラスもその地位を得た。もう、この国最弱ではなくなった事実を自分的には受け入れきれないでいる。

「矜持=ラナンキュラス。前へ‼」:

「はい‼」

 そして俺はさらにもう一つ、受け取ることになっていた。

「御身はこの戦争において最高の戦績を上げ、そして、神竜と戦いトドメを刺して、悪の権化を消した。その栄誉をたたえて、ここに、ホープ国の【英雄】という称号を与える‼」

 そう。そして俺は、だから俺は、この国最弱戦士の俺は、国の英雄となったのだ。


 その後はブライやイキシアの言葉などもあり、まあ小馬鹿にされたが……、色々あって食事会というか、談笑会というかスタートした。

「おい英雄!」

「うっせえ」

「うんうん、こんなにも立派になっちゃって……お姉さん悲しくなっちゃうなあ……」

「明日花さんもやめてください‼」

 もう俺はいろんな奴らに英雄だのヒーローだの言われて嬉しいのか嬉しくないのかもよく分からなくなった。

「英雄!」

「英雄どのぉぉぉ!」

「最弱くうううう!」

「ダメヒーロー!!」

「ひーろおおおおお!」

「英雄英雄英雄」

 ほんとにうるさくて耳が壊れちまいそうだ。一個違う言葉も入ってないか?

「えいゆっ! えいゆっ!」

 手拍子も入り、

「えいゆっ! えいゆっ! えいゆっ!」

 背後で英雄コールも始まった、誰かどうにかしてくれ。

「あっはははははは!」

「きょうじぃーーーーーひどい言われようだな!」

 イキシアはまだしも兄貴にも笑われてもう嫌だ。俺、本当に英雄なの?

「いやいやごめん矜持、さすがにおもしろっくて! もう笑わないから」

「笑ってるじゃないすか兄貴」

 でも、これも必然なのかもしれないな。

 つい先日まで最弱戦士をやっていた俺が急に国の英雄になったらみんな馬鹿にするわな。そうだよ。分かってますよーーーーーーーーーーー(棒)いや、(泣)。

 そんな少しすね気味の俺に、

「ほんとびっくりだよ、お前が英雄だなんてなあ」

「まあな、俺が一番びっくりだよ」

「ほんと、いままで一緒にやって来たのに抜かされた気がするわ。お前のほうが下、だったのに、な?」

「うっせえ、ていうかまだ下だよ。一応俺のランクはDのままだ。お前のほうが上、だよ」

 ちょっと自虐で痛いことを言ったが、少し微笑んで兄貴が、

「それもそうさ、あんな不安定な力でまともに戦わせてられないよ。お前が魔術を使えるのはあの間だけだからな」

 現実的なことを言われてしまった。まあそうだな。俺自身、よく分からない力だしそれを使うための条件も曖昧だ。だが、発動中のあの間は何でもできるがしていた。本当に不思議な感覚である。

「それにな、お前の発動条件も面白いしな」

「どんだけ妹好きなんだよ」

「うるさいぞ、イキシア! 馬鹿にすんじゃねえ」

「え、お兄ちゃん……す、き、なの?」

 顔を赤くして聞くなよ! 琥珀! お前は分かっているだろ‼

「ははは、まあ成長したよ。矜持くんは……お姉さ……」

 もうそれはいいって明日花さん!

「それもそうだな。昔のあの弱弱しいやつが今ではこんなにも強くなるなんてな」

「そうですね、イキシアさん」

 もう褒めてんいるのか、褒めてないのかよく分からんぞ。

「わ、たしも……す、ごい……とおも…………ぅ」

 そこにさっきから後ろの方で入る隙間を狙っていたアストロがモジモジしながら入ってくる。

「本当に〜〜アストロ〜〜シャキッとしろってええ」

「イキシア、やめておけアストロさんが泣いちゃうだろ」 

 後ろからそうだそうだ! と第一分隊の戦士が声を揃える。

「……ぅぅ」

「はあ、悪かったよ」

 そんなこんなで昼食となる料理をたくさん食べて、色々な人とも話した。

 自分の近所の人からもありがとうだのなんなの感謝され、中には琥珀を心配する人も多くて、元気を取り戻した琥珀もいつの間にか笑顔になっていた。

 武器屋の店長にもお礼を言うと俺のおかげだなとか言われて、出世払いも成功したっぽいし、なんか色々やることも済んだ。

 そのあと、午後にはブライやイキシア、その他戦士を連れてトレニアとスイレンの墓の前での最後のお別れを行った。皆が複雑な思いでそこに立っていたし、琥珀自身も辛かったと思う。が、これも経験であり、この経験を次に生かして頑張っていくしかない。そう思い、皆で二人を勇敢な戦士と称えた。ほかの戦士ともお別れをして今日やること全てが無事に終わった。

「二人とも、俺はひとりの戦士として、二人が守り抜いたこの国も仲間も、琥珀も守る。だから、安心してくれ。絶対に、【英雄】にふさわしい男になってそっちに行くからゆっくり待っていてくれ」

 そう心で決意して、俺は次の階段に一歩を踏み出した。


 そのあとは皆んなで夕食会。店長のラーメンや高級肉のステーキ、高級サラダ、その他諸々を馬鹿みたいに食いまくってお腹が破裂しそうな俺である。やばいくらい、今日は食べてばっかだな。

「今日はありがとうございました!」

「おう、お前も鍛えて、もっと強くなれよ」

「英雄うううううううう笑笑」

「また、ね」

「ラーメンいつでも食わせるぜ!」

 別れの挨拶をして、帰路につく。

 さっきまでとは違い、静まりかえった道。

「お前が英雄かよ、まったく親友が大きくなったもんだ」

「ま、俺は弱いけどな」

「それは当たり前」

「っへ、お互い様だろ」」

 いつも通りの帰り道に、いつも通りの話。久しぶりのこの感じ。でも本当はこの感じがつい二週間前のことだったって言うのに神竜戦に、クエストに、色々と重ねてすごく長く感じた一ヶ月だった。

 それに、最弱戦士だった俺がこの一ヶ月で英雄にまで成長してしまった。ランクは変わらないが……。とにかく、すごいスピード出世だよ。

「本当だね、矜恃くん、昔は、あんなに小心者で弱かったのに……成長したね」

「お兄ちゃん、いっつも私に助けられてばっかりだったのに、今度は私が助けられちゃって……本当にびっくりだよ」

「相変わらずの妹好きは変わらないけどな……」

「それは妹想いと呼ぶべきだなー」

「どっちでも、私は嬉しいよ?」

 そう言った琥珀に、不意に、頭を撫でていた。

 えへへ……と赤らめ嬉しそうな顔をする。

 それを見て思った。

「平和になって(琥珀が無事で)良かったよ」

「そうだな、英雄」

 英雄ね。そんなものを背負って、生きていけるかなんてさっぱり分からない。けど、となりに。

「ん? …………⁇」

 こいつがいてくれるなら生きていける気がする。こいつを守って、支えて、そんでもって笑わせて、死ぬときにはありがとうって、幸せだったって、そんなふうに言い合えるようにならないとな。それが俺の使命なのだから、。ただ守ることだけが使命ではない。

 俺は知っている。

 こいつを最高の『幸せ』にさせるのが、俺の本当の使命だ。

「どうした矜恃?」

「⁉︎ ああ、なんでも……」

「お兄ちゃん、なんかおかしっ!」

 空を見上げて。

 兄さん、トレニア。

 絶対に使命を果たすから、見ていてくれ。

 もう一度手を握る。その、小さくて、弱そうで、優しくて、暖かい手を握る。

 俺はその暖かさを、もう一度心に焼き付ける。

「矜恃、俺らここだから」

「ああ、また」

 長かった。

「矜恃くん、琥珀ちゃん。頑張ってね!」

「うん、明日花姉さん‼︎」

「ありがとう、明日花さん」

 さよならと、手を振って、いつも通り別れて行く。

 ようやくこれで、長かった戦いが終わる。

 ジ・エンド。

 でもやり残したことが一つだけ。

「なあ琥珀」

「なあに?」

「一つ。大事なこと忘れてたわ」

「だいじな……こと?」

「そう、大事なこと」

 俺らは家の前で向かい合った。

「琥珀!」

 楽しそうに、優しそうに笑う琥珀を見て涙が出そうになった。でも、それをこらえてその言葉を待つ。

「お兄ちゃん、ただいまっ‼︎」

 うん、そう。その言葉を。

「琥珀、おかえり‼︎」

 やはり我慢はできなかった。

 俺の頬には暖かい涙が流れて、胸の中には暖かい鼓動を感じる。その暖かさを俺は包み込んで、一体になった。

「もう、お前を離さない。絶対に守るから、お前のための英雄になるから、いつまでも隣にいてくれ! 大好きだ! 琥珀‼」

「お兄ちゃん…………ありがとう!」

 そんな二人の涙は、ゆっくりと時間をかけて落ちていき、そのしずくに抱き合う二人の姿を映して、はじけて消えていった。



 後日談、というか数時間後。


 何か騒がしいな。

 外の音が気になってドアを開ける。

「どうかしたんですか?」

「あああああ矜恃くんか」

「ええ」

 慌てた様子のおばさんの後ろを近所の皆が走って逃げて行く。

 何があった?

「広場で白い猛獣が暴れているんだ‼︎」

「白い猛獣?」

 なんか嫌な予感が……。

 悪寒がした瞬間、後ろから琥珀が声をかけた。

「ねえ、お兄ちゃん、シロ知らない? どっか行っちゃって……」

 あ。

「おばちゃん、どうしたの?」

「広場で白い猛獣が暴れてて……」

 ああ。

「お兄ちゃん?」

「は、ぃ……」

「私がいない間、シロに餌あげた?」

「あは、はは……」

 そこには静寂が広がった。

 ………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。

「お兄? ちゃああああん‼︎‼︎‼︎」

 さっきまでKMTだった琥珀は鬼になった。

「ごめんなさーーーーーい‼︎‼︎‼︎」

 なんか嫌な予感がしたんだよ。シロが全然見当たらなかったから。

 そういうことだった。そうだったのか。

 琥珀のペットのシロは賢い狼。そして餌が与えられないと自ら、それを求めて探しに行くことができる。

「ああああああああああああああ‼︎‼︎‼︎」

「もおおおおおおおおおおおお‼︎‼︎‼︎」

 俺と琥珀は、光を上回る速度で広場へ向けて急発進した。


 終わり







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