「割り箸-①」

 食堂で買ったカレーに何故か割り箸が付いてきた。何を意図して付けてきたのかわからなかったが、僕はそれを光の下で傾けたりしてあらゆる角度から見ていた。あたかも、宝刀の刃部分を吟味するように。

「これで何かしようよ」

 昼休みにスマホを机の下に隠しながらいじっているTDに突き出した。

 割り箸を見るなり、はぁ!?という顔で僕を嘲笑った。

 美術の教科書にお手本として載せれる呆れ顔で僕を馬鹿にする。

「割り箸で一体、何が出来るんだよ」

 僕はその質問に答えるように目の前で箸を割ってみせた。

「棒が2本ある。そして、ここに2人いる。つまり……王様ゲームしよう」

「俺ら2人だけで!?」

「これで、暇をどれだけ潰せるか試してみたくないか?」

 僕は若干、煽るように誘う。

「それは……やってみるしかないな」

 ふっ、TD。お前はカレーのデザートに食べたプリンより甘いぜ。あ、金欠で買えなくて食べてないんだった。


 果たして、僕らは2人だけで王様ゲームを開始した。

 僕は隣の席に座るABにこの戦争ゲームの手伝いをお願いした。

「ねーAB、箸持ってくれる?」

「あ、いいよ」

 箸を握ってもらい、TDと向き合う。

「それじゃあ、始めるか」

 緊張感を出すため少し低い声で言った。

「あぁ、やるか」と続けてTDも声色を真似て言った。

(お、めちゃくちゃノりやすいなコイツ)

 2人は己が目指す棒に手を伸ばす。しかし、ここで問題が発生した。

 お互いが引こうと選択した棒が同じだったのだ。

 睨み合う2人、それをニコニコしながら傍観するAB。険悪な雰囲気を破ったのはTDだった。

「なーに同じの選んでんだよ!」

「ばーろー!お前が俺のやつ選んだんだろ!」

「はぁ!?先に触ったのは俺ですう!!」

「このゲームやろうって言ったの俺ですう!!」


 ・・・・


 いたちごっこを繰り返すも拉致があかないと思った2人はその後、大人しくじゃんけんを行った。数戦後、やっとその棒を抜く権利を勝ち取ったのはTDだった。

 脱線した僕らは改めて王様ゲームを再開した。

「それじゃ、いっせーのーせ!で引くぞ」と僕が合図を伝えると、TDは錆びついたロボットみたいに頷いた。

「「いっせーのーーせ!」」

 抜いた棒を確認する。そこには『王』とは書いてなかった。つまり、それが意味するのは僕ではなくのTDが『王』になったということだ。

 どしてだよ!!!、と内心めちゃくちゃ悔しがった。しかし、顔には出さずに相手のペースに気を取られないようにと身を構えた。

 棒の選択を失敗した愚かな僕を見て声高らかに笑うバカが目の前に屹立きつりつしていた。

「はい!もらったぁ!!!」

「ちくしょううう!」

 僕は積み木の城を壊されたように膝から崩れて床にへたり込んだ。その上では、まるで蛍光灯の光を掴むようにTDがガッツポーズ決めていた。

「さぁ、こいよ。もう失うものは何もない……ただ、家族にさよならを告げたかった、な」僕は王の前でひざまずいた。

「そーだな。じゃー……あ、待ってこれって番号で言うんじゃなかったっけ」

「あ、そういえばそうかも」

「え、どうする?命令しても平気かな」

「まー、国民がそれで納得するならいいけど」とお互い、役に入り込んだセリフを並べる。そういえば僕は一体、何の役なんだろう。

 疑問に思いながらも会話はその後も続く。

「えー、けど国民いないやん?ふつうに命令しても良くない?」

 王がこの世で一番似合わないTDが駄々をこねる子供のように言う。

「わかった。甘んじて受け入れましょう。んで、命令は何だ?」

 少し考える素振りを見せて、にやりと口角を上げて僕に命令した。

「全力で廊下を走ってこい」

 静寂が2人の間で凍りつく。

 意識が追いつかない僕はもう一度聞き直した。

「え?廊下を……?」

「あぁ、そうだ」

「マジかよ」

 言葉が失われるほど絶望に陥った。

 廊下を走ってはいけない、というのは言わずと知れた有名な常識。しかし彼はそこで走れと命令したのだ。

 つまり、それは殺人を犯せというのと同意義である。僕はおののいた。彼の正気を再度、疑った。(このド阿呆め、お前の脳みその中にはこんにゃくでも入ってんのか。)

 意識が遠のく中で早くしろと、TDが親指をクイクイッとやりながら促す。

 やってやる。そう決心して、僕は立ち上がり彼が指し示す場所に向かった。

 強く握るドアノブがとても冷たかった。

 そして、勢いよく開けた先を見て、後ろを振り向く。まるで、村を旅立つ戦士のように。

「俺、いってくるわ」

 僕は前に向き直り、 廊下に一歩足を運ぶ。

 すると、後ろから声が聞こえた。

「また、会おうな……」

 その言葉を噛み締めて僕は駆け出した。堪えた涙はキラキラと星のように輝きながら散った。

「うおおおおおおおおおおお!!!!」

 その悲鳴に似た雄叫びを最後に、えっくんは教室には帰ってこなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

男子高校生の狂騒曲 村山 夏月 @shiyuk_koi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ