男子高校生の狂騒曲

村山 夏月

「寝起き/始業」



「ねー、起きてよ!!おはよう!!」

 僕は朝から机に突っ伏して寝ている飾棚かざりだな(以下、ここから先はTDと書く)に目覚めのキスの代わりに大きめの声をプレゼントした。

 それに反応してピクリと体を動かしたTDは、んだよ、と言いながらむくりと起き上がり、流れで背伸びをした。

 そして僕は目の前にあった疑問を彼に投げつけた。

「なんで、寝てんだよ。昨日もゲームしてたの?」

「いや、してないよ」

「え、珍しい。じゃーなんで眠いんだ?」

「なんで眠いんだっけ」

「いや、俺が知るわけなかろう」

 唐突な斜め上からの質問に笑いながら返した。

「昨日の夜は何してたの?」

「なんだっけ……あ、そういえばゲームしてたあ〜」

 欠伸で間延びした語尾の途中に僕は間髪入かんはついれず冷静にツッコむ。

「お前…ゲームしとるやんけ」

「あ。ほんとだ」

 正気に戻って自分の馬鹿さに気づいて目を見開くTD。それを見て、やれやれと呆れ笑いをする僕。

 それから2人は向き合って、まだ人の少ない静かな朝の教室に少しうるさい笑い声を響かせた。

 その間、隣の席に座る海老名(以下、AB)が授業の予習を行いながら僕らを温かい目で見守り、微笑んでいた。




 十数分もすると人は多くなり、教室は先ほどの静寂とは打って変わって賑やかになっていた。

 小林こばやし(以下、はやC)と松島まつしま(以下、MT)は5分前に登校して今はゲームの話で盛り上がっていた。

 いつも一緒に馬鹿なことをする仲間は全員で6人。

 そして、この時まだ登校していなかったのは唯一のツッコミ担当である真面目な柏木(以下、KC)ただ1人だけだった。

「KC、今日も遅いな」

 僕は中空に呟いた言葉を眺めるようにその先にある時計を見つめた。

 あと、2分でHRが開始する、それまでに登校しないと遅刻は免れない。果たして間に合うのか。

 しかし、その不安は前方にある教室のドアが開かれるとそこから外に逃げ出すようにすぅっと消えていった。

 入れ替わるように、背の高い人影が姿を現す。皆から送られる視線から逃げるように背を向けて、入ってきたのはKCだ。

 何故遅いのかは服装が体操着ということで見当がついた。きっとサッカー部の朝練を終えてやってきたのだろう。

 KCは僕の前にある小綺麗な空席に座り、リュックを床に置いて、中から取り出した水筒で水分補給をしていた。

 飲み終わるのを待つ僕は、まるで今か今かとよだれを滝のように垂らしながら獲物を狙うハイエナのように目をギラギラと輝かせていた。そして、1日の肩慣らしにいつも通りボケてみた。

「おはようー。随分と遅かったな、おばあちゃんでも助けてたのか?」

「んなわけあるか、朝練だわ!」

「てか、何故に頭に海藻が乗ってんの? 」

「髪の毛だなー!それ!」

「じゃがいもとトマトってナス科らしいよ」

「マジか!じゃないわっ!今いらんやろ!」

 流石、朝からキレのあるツッコミ……快感で痺れるわ、と1人で悦に入る僕をそのままにKCは前を向き直した。

 その一連の流れを見てたはやCとMTは笑いながらKCにおはようと挨拶をした。

 その後、間も無く始業のチャイムが鳴って僕らは『いつもの日常』に引き込まれていった。

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