太鼓

鹿紙 路

1


 とん、と、とんとん

 とん、と、とんとん


 手を上げ、振り下ろす。片面張りの太鼓を叩く。ゆっくりと身を揺らしながら。口をすぼめ、うぃー、うぃー、うぃー、とちいさい声を出す。

 地を這う虫の声。


 とん、と、とんとん

 とん、と、とんとん


 うすくなめした革の太鼓を、指先で叩く。それだけが、さだめられた拍をなぞる。

 ふぃるるるる、と口のなかで声を出す。

 樹冠を飛ぶ小鳥の声。


 とん、と、とんとん

 とん、と、とんとん


 す、と身をまっすぐに伸ばす。


 こんなはずじゃなかったんだ


 壮年の女巫祝の口から、しわがれた低い声が出る。


 とん、と、とんとん

 とん、と、とんとん


 村のみな 死んでしまった

 おれのせいで

 おれが うそを

 おれがうそをついたから


 じーり、じーり、と蛙が鳴く。


 赤いひとたち あの

 呪文をしゃべる 赤いひとたちを

 おれは 信じた

 飢えてさまようあのひとたちに

 蒸した芋を与え

 村おさがおびえるのに

 かれらは害を与えないと言って

 村に案内した

 かれらは きらきらひかる玉をくれた

 それをあの子にあげれば

 あの子はおれのものになると

 愚かにも そう思って だから

 洞窟のなかを 導いて 村まで


 とん、と、とんとん

 とん、と、とんとん


 しゃわん、と女巫祝はちいさな銅鑼を鳴らす。


 かれらは 雷のような音を立てて

 懐から投げつけた黒い石を 破裂させた

 草で編んだ家々はこわれて

 ちいさなひとも おおきなひとも 村のみなはみな

 死んでしまった

 赤いひとたちはするどい歯を剥き出してわらい

 呪文をさけびながら ちいさなナイフで

 あのちっぽけなナイフで

 村のみなをきりきざんで 刺して 食ってしまった


 ぴゅーい、ぴゅーい、と鳥が鳴く。


 こんなはずじゃなかったんだ


 とん、と、とんとん

 とん、と、とんとん


 おれ?


 おれは?

 

 とん、と、とんとん

 とん、と、とんとん


 そのあと どうしたかって?

 赤いひとたちにあの子がナイフをふるうのを

 見ていられなくて

 かれらのナイフを奪って

 食べてしまった あの子を


 とん、と、とんとん

 とん、と、とんとん

 

 女巫祝はばたりと倒れる。身を痙攣させ、太鼓を手放す。ころころころ、と太鼓が転がり、血だまりに落ちた。

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太鼓 鹿紙 路 @michishikagami

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