帝国の娘。ただし、母親は南の植民地の王族。
帝国は広い世界を植民地化して、その富を貪っている。
娘は長じて植民地の王国の女王になり、訳あって廃位となる。
彼女は北国の植民地の青年王に熱望され、結婚する。
帝国の娘は帝国の思惑をもって、北国に向かう……
一見、政略結婚である。が、北国の青年王には情熱と誠実さが、南国の廃女王にはたくましさとしたたかさがあった。
そしてこの北国には、「身分の差、立場の差にかかわらず、互いを尊重する」という気風があった。
そして彼らの結婚と、人々の繋がりが、世界を、ものの見方を少しずつ変えていく。
帝国の支配の手段である「共通語」を、おおくの人に意思や実情を伝えるための手段として。
帝国の富のひとつである「美しい手工業製品」を、情熱を伝えるための手段として。
帝国のずみずみにものを運び、また収奪していく商人たちは、植民地どうしを繋げる架け橋として。
違う生い立ち、違う立場の人々が、視線をおなじにし、おなじものを見たいと望んだとき、帝国の支配の手段や奢侈の品の、別の側面、人間の息遣いが感じられてくる。
帝国内部の人々の息苦しさ、植民地それぞれの事情と苦しみ。
帝国によって分断され、違うまなざし、違う風景を見て生きてきた人々のまなざしが、おなじものを見たとき。
もしかしたら。
期待の膨らむ作品。
青年王と廃女王の結婚、どちらかが卑屈になるとかそういう湿っぽいシーンはなくて、ただもう、圧倒的な「人間の誠実なお付き合い」が楽しめます。
ほか、ちょっと自尊心が不足している恋人に、自分を尊重することを、すくなくともふたりの付き合いの中では対等なんだと態度で教えていく恋愛とか、プライドと義務と憎しみのあいだでわけの分からなくなっている気配すらあったどうしようもなく不器用な帝国貴族の青年の「立場に囚われたこころ」を解放していく恋とか、いろいろ揃ってます。
どこを切っても美味しい。
あと、経済・産業の書き込みが、知識に裏付けされて、豊かな内容を持っているので、読んでいて楽しいです!