第3話

城咲先輩のカウントが終わった瞬間部室にとてつもなく力強い、雷のようでそれでいて心の中の何かを撃ち抜くような音が響いた。山本先輩は一心不乱に弦をかき鳴らし、佐山先輩と城咲先輩は互いを見合いながらギターのリズムにさらに色をつけている。これがいわゆる『グルーブ』というものなのだろう。佐山先輩はそれだけでも力強い音達に乗せてそれに押されないほどに声を張り上げ歌い出した。歌詞は英語でさっぱり何を言っているのか理解は出来なかったが俺は野生のカンというか第六感というべきか分からないがとにかく何かを感じ取った。それは俺のような何もない平凡な生活を送り続けていた10代の少年少女のフラストレーションを爆発させ、怒りにも似た魂の叫びのようで、これに俺は昨日めちゃくちゃながらもかき鳴らした後にどこか共通点を感じた。間違いない、きっとここに俺が求めているなにかがあるはずだ!

演奏を終えた先輩達は何かを出し切ったような表情を浮かべ、俺たちに何かを投げかけるような視線を送った。

「どうだった?」

佐山先輩は先ほどの感情の爆発のような声とは打って変わってやさしい声のトーンで問いかけた。かっこいいの一言ではとてもじゃないが片付けられない様々な感情が押し寄せたからかうまく表現出来なかった。

「かっこよかったです・・・」

結局こうとしか言いようがなかった。それでも佐山先輩は俺の心情を察したのか

「俺たちの演奏に色々と何かを感じ取ってくれたんだね。こういう言い方したら卑怯かもしれないけど、これがどういうことか知りたければ僕たちと一緒にやろうよ。」

と先ほどよりも更に優しく落ち着き払った声で言ったが俺たちはとにかく演奏に心を打たれてこれ以上の言葉を発するのが困難だった。そのまま特にその場で言葉を交わすことなく先輩達と下校することにした。

先輩達は一年の俺たちに気を使ってまた色んな話をしてくれたのだが、あの演奏が頭の中から離れなかったからかほとんど会話が成立しなかった。それは宗馬くんも同じだろう。結局先輩達とは帰り道の都合上川の土手の近くで別れ、宗馬くんと二人きりになった。

「俺やっぱり軽音部に入るよ。きっとあそこには今までになかった何かがある。」

宗馬くんはそう言って石を川に投げつけた。

「俺もそう思う。今までの人生とは違った刺激的なものを感じにいきたい。」

俺は今までの理屈っぽい考え方をせずに真っ直ぐにそう言った。すると宗馬くんは俺の前に手を差し出し、

「だったら俺とバンドを組もう。きっと高島くんは俺と似た者同士なんだと思う。そんな二人が合わさればきっと先輩達みたいに何かを表現できるようになるはずだよ。」

と興奮気味に言った。俺も興奮気味に

「そうしよう!」

と彼の手を握って視線を真っ直ぐ向けて声を放った。

その興奮は家に帰っても冷め止むことはなく、食事すらも忘れて俺はギターをかき鳴らし続けた。相変わらず音がめちゃくちゃではあるが昨日よりもさらに心が踊りこれからの軽音部の部員としての生活を想い胸を躍らせた。次の日はさらにその興奮は高まり、ついに俺たちは軽音部に入部した。

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ギターケースにサングラスを 真島庸介 @bassbow

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