第27話 SF映画4
4.
私が再び目を開けると、そこには完全に機能停止したアフィが横たわっていた。
また会いましょうね、心優しい私のリトルシスター
耳元で聞こえた彼女の声が頭の中で反芻した。そうだ、せめてそれが彼女の望みなら、最後まで任務を遂行しなくては。
彼女の深層から帰った私の中には、何処からか沸々と強い反発心が生まれていた。もはや憎悪といっても過言ではないほどに、その思いは膨らみ続けていた。
彼女をあんな風にしたシミズ達が憎いと思った。
私を意味を知りながらストッパーという名で呼んだテツカが憎かった。
私の姿を彼女に似せたデザインに設計したキムラが憎かった。
彼女の心を殺してまで世間体を取ろうとしたシミズが憎かった。
私達が使えないと分かった途端に手の平を返して切り捨てた政府が憎かった。
彼女を一瞥して不快な表情をした、あの男性職員が憎かった。
それでも未だに地上で私達アンドロイドを駆使する人間達が憎かった。
我が身だけを大事にする金持ちや政治家達が憎かった。
彼女の心を殺したハッピーエンドの映画が憎かった。
最期の最後に私にキスをした彼女が憎かった。
私は知らぬ間に掌を痛いくらいに強く握り締めており、目からは涙が流れていた。
私はその涙を拭って、私達を散々苦しめた人類への報復を決心した。
思い立ってからの私は直ぐに実行に移す。
国際宇宙ステーション内全体をセンサーで探索をかける。2030年以降、数十年に渡って拡大化を続けた施設内は現在1000名以上の職員と各国の代表達が生活しており、誰にも見つからずに目的地に向かうには無謀に思えたが、この時の私は何とかなりそうだと推測した。
私は横たわる彼女のボディをそっと抱き抱え、慎重に部屋を出た。そこからセンサーで危険だと予想される箇所を避けながら、ステーション内を隠れたり遠回りして、監視カメラを時にはハッキングして映らないようにしたり、巡回している職員をやり過ごしながら、物音を立てぬように慎重に移動を繰り返した。
やっとの思いで辿り着いた目的地は、私やシミズ達がやって来た国際宇宙ステーションの出入り口ともいえる場所だ。堅い扉で頑丈に施錠された先にはもう一つ扉があり、1枚目の扉と2枚目の扉の間の空間で気圧差を調整する。そうした二重の扉を抜けて初めて緊急脱出用のポット型宇宙船へと辿り着ける。その後は滑走路で加速して、最後にシャッター式のゲートを通り抜ければ、その先は宇宙空間になっている筈だ。
私はチューブを扉に接続して、指紋認証と声帯認証と16桁の暗号をハッキングで無理矢理突破し、本来ならば限られた人間にしか開閉できないその扉をこじ開けた。
中に入ると同時に扉は閉まり、気圧変換が行われる。人間ならこの段階で宇宙服の着用が無いと危険だが、私はアンドロイドなのでボディに異常はなく、抱き抱えた彼女にも異常は見られなかった。
気圧変換が終わり、扉が開くと10台ほど並べられたポット型宇宙船が目に写った。そのうち、一番燃料がある機体に乗り込み、彼女のボディを隣に座らせた時だった。緊急用のアラームが突如として鳴り始め、視界いっぱいに警告ランプが点滅して赤く染まった。
恐らくポットに乗った時にポットからの起動信号を受け取った本部が異常を察知したのだろうと推測していると、すぐに駆けつけて来る足音が聞こえて来た。人間のものではない、初めから兵器として利用する為に作られた警備ロボット達によるものだ。だからこそ、もう私には迷っている時間は無い。
私はポットを起動して、発進を試みる。だが、本部側から制御できるのかポットは発進をせずに途中で強制停止してしまう。クソッと悪態つきながら、私はすぐさま首裏にチューブを差し込み、ポットと繋いで、機体の管理制御している機関にハッキングを仕掛ける。
並行してポットから外をセンサーで確認すると、既に扉の向こうには警備ロボット達が到着しており、統率を組んで一斉に武器を構え始めていた。もう少しでハッキングが完了する所で、警備ロボットによる銃撃が開始された。レーザー光の様な熱射弾は扉を貫通してポットに損傷を負わせてきたが、私はハッキングが完了し、まだポットが飛行可能である事を把握すると、エンジンを全開に振り切った。
機体が加速し、滑走路を駆け抜ける。後方からは常に熱源反応があり、警備ロボットによるレーザー攻撃は容赦無くポットの耐久値を削ってきたが、私は御構い無しに機体を前進させ、一気にゲートに向かって衝突させる。
メキメキとゲートが軋み、変形していくのと同じようにポットも凹んでいくのが分かった。
「開けぇえええ!!!!」
喉を枯らしながら私は叫んで、ポットを介してゲートにハッキングを仕掛ける。後ろからは同じくポットに乗り込んだ警備ロボット達がこちらへ向かって飛んで来ていた。
私の頭の中で回路がショートして焼き切れる衝撃があった。視界の中で火花が飛び散り、一部の身体機能が停止し始めていた。それでも、私はギリギリの意識の中でゲートへのハッキングを続けていた。
ようやくハッキングが完了しゲートが開くと同時に、追っ手のポットが私のポット後方から衝突して来た。幸いお互いのポット自体は爆発四散こそしなかったものも、メキメキと更に潰れて変形し、衝突の衝撃で私のポットはそのままゲート向こうの宇宙空間へと吹き飛ばされた。
すぐに私はハッキングで繋がっていたゲートを施錠して、追っ手が来ないようにする。間一髪の所で追っ手のポットが封鎖されたゲートに阻まれて勢いよくぶつかるのがセンサーで探知できた。
宇宙空間に投げ出された私のポット自体の機能は殆ど制御が効かないほど損傷を負っていたが、私はそれよりも視界に写る広大な漆黒の宇宙、徐々に離れていく国際宇宙ステーション、そして青々と眼下に広がる地球に興奮していた。
ポットのメインシステムは悲鳴を上げており、様々な警告音が機体内部で響き渡っていた。だが、最早どうすることもできない。
機内で何も出来ない私は、ただただこの機体が地球の軌道に乗り、無事に地上へ到達することを願うことしか出来なかった。
それでも私は絶望しなかった。だって私は孤独ではないから。
隣で眠りにつく彼女の手を強く握り締めて、私も瞼を閉じて眠りにつくように祈った。
エンドロールに僕たちも 刻谷治(コクヤ オサム) @kokuya_osamu
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