『ほんとうのAI』
琥珀 燦(こはく あき)
『ほんとうのAI』
『あなたが好きです。
藍色よりも純粋な青で混じりけ無く
あなたを思っています
ほんとうのAIより』
靴箱に、そんな手紙が入っていた。
(これは…ラブレター、だよな?)
『あなたが好きです』と書いてるからにはどうやらラブレターらしい。
でも、まるで謎解きのような文章にも読める。
(どこかへ呼び出し、とか約束もないし…妙だな)
でも、いたずらではない、何かひたむきさを感じる手紙だった。
藍色の封筒に藍色にふちどられた便箋。
僕がブルーが好きなのを知っているんだな。
しかし、青の中でも藍色にこだわっているのが気になる。
日本の古代色で、よくあるマリンブルーやロイヤルブルー、瑠璃色、水色とは色合いが違う。
ふむ。
『藍色よりも純粋な青で混じりけ無く』か…。
僕は昼休みに図書室へ向かった。
放課後、僕は、クラスメイトの一人の女の子を呼び止めた。
「花田さん、ちょっといい?」
花田磨莉(はなだ まり)。おさげ髪で頬にそばかすの散った小柄な少女。
僕が呼びかけると、黒い瞳を大きく見開いて、一瞬固まって、すぐ頬を染めて俯いた。
屋上に誘い出して、自販機で買った紙パックのイチゴミルクを渡した。
僕はコーヒー牛乳を選んで、並んでフェンスにもたれて立った。
「この手紙、君だろ?」
朝、靴箱に入っていた手紙を鞄から覗かせる。
磨莉は真っ赤な顔で、小さく頷いた。
「浅葱くん…やっぱり気づいてくれた?」
消え入りそうな小さな声で、嬉しそうに言った。
「僕の青色好きは筋金入りだぜ? まあ、今回は大事なことだから、一応図書館行って確認したけど」
僕は照れて彼女の方が見られなくて、空を見上げながら言った。
「僕の名前は、森浅葱(もり あさぎ)。君の苗字は花田=(イコール)青の一種、縹(はなだ)色と掛けてみたんだろ?
そして、浅葱色と、縹色は、同じ『アイ』という染料で染められた、藍色の種類なんだ。
浅葱色は藍染めを薄く染めたもので、あと、縹色は…藍の青色を染める時にはキハダという染料で下染めしてからアイをかける。
でも縹色はキハダの下染めをかけない、純粋にアイだけで染めた、僅かに緑がかった藍色だ。
だから、君は、自分のことを『ほんとうのAI』と例えたんだろ?」
そこまで言って、彼女の横顔を見た。
「さすがだなあ…でも気づいてもらえないかとも思ってたの。
私、自分に自信が持てなくて。特に取りえも無い、可愛くもないから、呼び出していきなり告白するより、
あなたが、その謎かけを解いて、私がどういう子だかわかってもらえてから、お話ししたいと思ったの」
彼女は、僕のほうを向いて立ち、目を見て言った。
「片思いでもいいの。あなたが好き。同じクラスになってからずっと見てた。それだけ伝えたかったの」
「僕は…そうだな、賢い子は好きだよ」
たぶん僕も真っ赤になっていたかもしれない。
「僕たち、付き合ってみる?」
そっと右手を出してみた。
その手をしばらく驚いたように見ていた磨莉は、我に返ったように慌てて、
「はい!」とはっきりした声で返事し、手を握り返した。
そんな僕たちを、空の青い色が柔らかく見守っていた。
『ほんとうのAI』 琥珀 燦(こはく あき) @kohaku3753
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