幽霊

今日は風が強いな。そう呟いて私は足を早める。

時間は深夜2時ほど。今日は高校時代の友人で集まる飲み会があったので、大分帰るのが遅くなってしまった。

最寄りの駅から家に向かって歩いていると、ふと不思議な感覚に包まれた。どこかから誰かに見られているような気がするのだ。周りを見ても、誰一人として居ないのに。

私はそんな感覚を無視して、家に帰った。

家に着く頃には風は止んで居たが、変わりに雨が降って来た。早く家に上がらなければなぁと家の玄関に手をかけたところで、手の動きが止まる。後ろから、服が擦れる音が聞こえたのだ。

私は酔いが回った頭で友人の誰かが付いて来たのかと思い振り返ったのだが、そこには見知らぬ女性が。

最初は思い出せないだけで同じ高校の誰かかと思ったのだが、いかんせん顔が若すぎる。それに反比例しているかのように、格好は古い。私がどうしたらいいか悩んで黙っていると、その女性が話しかけて来た。


「あの、家に上げてもらってもいいですか?」


勿論、急に現れた女性を家にあげるわけもなく、私はドアを閉めた。

そして玄関で靴を脱ぐために座っていたのだが、急に目の前に気配を感じたので、目線を上げる。するとそこには、先程の女性が。


「…………何で?」


女性は微笑むと、少し寂しげに言った。


「私、幽霊なんです」







とにかく、どうしようもないので部屋に上がることにした。私の家は、1LDKの賃貸だ。リビングにはソファとテレビ、それに簡単なテーブルと本棚がある。

とりあえず彼女をそんな部屋に上げた。


「で、何でここに?」


酔いが抜けきらない頭でそれを質問したのだが、彼女は分からないの一点張り。彼女曰く、気がついたら私の家の前にいたそうだ。

何故ここにいたのかも、何故幽霊になったのかも覚えていない。

正直私は、ドアの件があったのにも関わらず彼女が幽霊だと信られずにいる。

私は、明日がちょうど休日だから、明日話に付き合ってやると言い、寝ることにした。

この出来事が全て夢なら良いなと思って。






翌日起きると、やはりと言うべきか昨日の女性が枕元に立っていた。

昨日と変わらぬ服装で、変わらぬ顔で。どうやらこの女性、昨日からずっとここにいるらしい。と言っても、昨日の夜は酔っていたので細かいところまでは覚えていないのだが。

ともかく、私は昨日言った通りに話を聞くことにした。

女性の話をまとめると、ほとんど何も覚えていないが、ただ一つだけ覚えているものがあるそうだ。もの、と言うか場所。○○県☆市にある公園らしい。

私の家からそう遠くない場所にあるので、今から出ることにした。私は外用の服に着替えた後外に出て、エンジンをかけるべく車に乗る。

車で出る前に女性が、自分が幽霊だと言う証を見せてくれた。ちょっと宙に浮いたり、ドアをすり抜けたり、透明になったりと。私としては、出来れば彼女が幽霊ではないほうがよかったのでそれを確認したくはなかったのだが、確認してしまっては仕方がない。彼女を助手席に乗せ、私は車を発進させた。





公園には、ウチから1時間もかからずに到着した。

私は、予想していたよりも公園が近かったので驚いたが、彼女は対して驚いていない様子。それは何故か。

私が感じた小さな違和感は、直後の彼女の行動によってかき消された。


「あそこです」


と、丘の上を指差す彼女。

丘の上には何もなく、ただただ見晴らしが良さそうだな、という感想を抱く。私は、彼女と共にその丘の上に行くことにした。


丘の上に着くと、彼女の表情が変わった。今まで朗らかな表情だったのが急に能面のように無表情になったのだ。そんな彼女の様子に違和感を覚えた私は、一歩、また一歩と彼女から離れて行った。

そうして、5歩ほど離れた時だ。彼女の首がぐるりと周り、真後ろにいるはずの私に向かって


「ああ、思い出しました。私…」


彼女の目は、これでもかと言うほど見開かれており、白いはずの部分も全て赤く充血していた。


「ここで」


気がつけば私は彼女に背を向け走り出していた。早く遠くへ。早く車へ。

何が起こるかは分からないが、とにかく逃げなくては。そう感じ、走り出した。


「脳みそを吸われて死んだんですよ」


全力で走ったのは何年振りだろう。高校生振りかもしれない。こんな事になるなら、もっと普段から走っておけばよかった。

言い知れぬ恐怖を感じたからか、私はそんな後悔をしていた。


「だから」


車についた。ズボンのポケットに入っているキーを鍵穴に差し込む。

カタカタと震える手のせいでキーがなかなか鍵穴に入らず、キーを落としてしまった。


「誰でもいいからこの無念を晴らそうって思ってたんです」


私は地面に落ちたキーを拾い上げ、再び目線を上げる。


「ねえ、○○さん」


車のドアに手をかけた瞬間、何かがつむじに刺さった。

その何かは、刺さったかと思うと急激に私の中身を吸い取り始めた。


「顏bdんをhq加温xhん指示」


最初、それが自分の口から出た言葉だとは認識できなかった。その後、私の四肢は私の意思に関係なくピクピクはね、全身の力が抜けた。眼球が勝手に動くせいで視界が定まらないが、その中でも分かったのが、彼女の真っ赤な瞳が私を見下ろしていた事。

この時私は、不思議なことに先程まで感じていた恐怖を感じなくなっていた。

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都市伝説 @setton

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