都市伝説

@setton

悪魔

ここに記すのは私が実際に体験した不思議な事、その一部始終だ。別に信じてもらえると思っているわけでもないし、信じてもらおうとも思っていない。私自身でさえ確かにそれがあったと自信が持てないのだから。それでもここに記すのは、私が抱える不安を消すためだ。あったかも知れない事を誰かに知ってもらうためだ。

そしてもう一度言おう。ここに記すのは、私が体験した事だと。









あれはとある夕刻のことだ。ビル風が吹き抜ける路地を下目に、私は帰る準備をしていた。私の仕事場はとある地方都市に建っているビルの6階にある。

今までは特に何も感じていなかったオフィスだが、アレが現れたと思うと向かう足が重くなっていた。と言っても、当時の私は何も感じておらず、のうのうと働いていたのだが。

ともかく、夕刻。私が帰宅しようと自分のデスクから立ち上がった時だ。時刻は忘れもしない6時ぴったり。私は、ある光景に目を奪われた。簡潔に言おう。私は、俗に言う悪魔を見た。

悪魔と言っても、別にツノが生えている訳でもなく、尻尾がある訳でもない。ほとんどが普通の人間だ。それでも悪魔だと思ったのは、ある一点に違和感、というか嫌悪感を覚えたから。そこは、頭部。本来なら人の頭があるべき場所には、ロバの頭があった。

その悪魔は、初めは特に何もせずにただじっと私の反対側に座っている同僚を見つめていただけだった。私は、ずっと立っていると目をつけられそうなのですぐに帰ることにしたのだが、私が通り過ぎた瞬間。悪魔は同僚の頭に何かを入れた。

目の端に捉えただけなので、何を入れたのか定かでは無いが、何かを入れたのは確かだ。この日はこれで終わる。そして、私がゾッとしたのは数日後。

これまで特に何の問題も起こしていなかった同僚が、仕事場での盗みを理由にクビになったのだ。その当初は悪魔に対する多少の不安こそあれど、特に何の心配もしていなかった。だが、そのさらに数ヶ月後。今日から数えると約一週間前になる。私は、ゾッとするを通り越して、恐怖を覚えた。

つい数ヶ月前まで善良だった同僚の姿が、強盗殺人の逃亡犯としてテレビに映ったのだ。

それを見た瞬間、私は今の職場の退職を決意した。

あの悪魔が原因だとは決まっていないし、あの悪魔が私の幻覚だった可能性だってある。同僚が凶暴な内面を持っていた可能性も。

だが、私は理性ではそう分かっていても、本能で悪魔のせいだ、と思っているのだ。

ここに書いた事は、私の不安を消す為に書いたと言った。知ってもらう為と言った。だが、もう一つ、目的がある。それは、私が少なくともこの時までは、犯罪を犯すつもりが無いという証明だ。

今日、私は退職届を出しに行く。次にここに帰って来る時も、今のままで居たいものだ。

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