生徒によるクラスメートへの専門授業

ちびまるフォイ

みんなに注目されるカリキュラム

「先生、明日の5時間目の授業はなんですか?」


帰りのホームルームにて、明日の時間割が配布されたが、5時間目だけ空白だった。


「ああ、これはな。生徒授業の時間だ」


「なにその体罰されそうな名前」


「ちがうちがう。生徒自身が、生徒に対して授業を行うんだ。

 授業内容も自由に決めていいんだぞ」


「マジかよ! 最高じゃん!」


クラスで一番の元気っ子が思わず立ち上がった。


「まったく、騒々しい……」


その隣に座っている眼鏡はイヤそうな顔をしていた。


「毎日5時間目は生徒授業の時間だからな、みんな用意しておけよ。

 先生が毎日どんな気持ちで授業の準備をしているのか味わうといい」


「やっぱり体罰されそう……」


「出席番号順にローテーションしていくからな」


翌日、出席番号1番の元気な男子が生徒授業の担当となった。


しょっぱなでどんな授業をするのかとみんな緊張していた。

男子は教室に本来なら持ち込み禁止されているPCを教材として持ってきた。


「んじゃ、俺の授業をはじめまーーす。

 あ、でもマジでぜんっっぜん授業とかやるきねーから安心しな。

 今日は、俺がネット見つけた面白動画を見まくります!!」


男子の友達たちは「おお」と野太い歓声をあげた。


「男子校だったらよかったのになぁ。エロ動画流しまくるのに」

「だな」


この手の年頃は「大人」と「アダルト」の意味をはき違えている場合が多い。

こんな授業内容でも先生は特に止めなかった。


「まずは、カップラーメンで爆弾作る動画だ!! えいっ」


教室の黒板には大画面でネットの動画が映された。


 ・

 ・

 ・


30分後、教室内には飽き飽きムードに包まれていた。


「え、えっと、次は、なににしようかな……」


クラスメート全員が同じものを面白いというわけもなく、

そのうえ60分1コマという時間制限はそこそこに長い。


クラスメートから面白大臣と祭り上げられるはずだった計画は崩れ去った。


「これだから学のない奴らは……。時間管理もできないとはね」


出席番号2番のメガネ男子が聞こえよがしに言った。




翌日、眼鏡君の授業。


PCだけ持ち込んだ1番とは打って変わって、学校で配布されている教科書はもちろん

市販されている参考書から六法全書まで持ち込んでいた。


「それじゃ、みんな授業をはじめよう」


「どんな授業する気だよ?」


「このクラスの平均偏差値を上げる。

 常々、先生の指導方法には非効率性を感じていたからね。

 1時間ではあるが、このクラスで一番成績の低い数学を濃密に教えたいと思う」


わかりやすく全員が「げっ」といいそうな顔をした。

開始数十分後には、全員が眉間を撃たれたように机に突っ伏して寝ていた。


チャイムが鳴ると、墓からよみがえるゾンビのように起きだした。


「うう……クソつまんなかった……」


授業というのは単に問題の解き方を解説するだけでは生徒についてきてもらえないんだと、

そのことだけが今回の授業にて学べた教訓だった。


「それじゃ、明日は出席番号3番」


「お、俺か!!」


ついに自分の番が回ってきた。

帰宅後もどんな授業をしようか考えまくっていた。


みんなが楽しめる授業はしたいけど、60分持たせる自信はない。

かといって、普通に授業をするほど勉強はできない。


「お兄ちゃん、早くトイレ出てよ!!」


「ばかやろう! 今は瞑想中だ!!」


かくして、トイレの神様から得た天啓は"ずる休み"だった。

1日俺をスキップすれば、次に回ってくるのは1巡後なので、何が人気かはだいたいわかるはず。


翌日、必死な偽装工作と持ち前の演技力で母親をだました。



その後、学校に戻ると、朝からクラスはにぎやかだった。


「どうなるんだろうね」

「私、ちょっと楽しみかも」


俺が教室に入ると、みんなの視線が一気に注がれた。

1日休んでいただけでここまで興味の対象になれるなんて少しうれしい。


「ねぇ、なんか楽しそうだけど、昨日何かあったの?」


「ううん。なにも」

「全然なんでもないよ、気にしないで」


風邪の演技にかけては一流の俺にとって、クラスメートの嘘にはすぐ気づいた。

けれど、友達に聞いても誰も教えてくれなかった。


「つか、今日の授業、お前だよ」


「え゛!? スキップじゃないの!?」


「スキップしたよ。だから昨日は4番の邪愚羅がやったんじゃん。

 で、今日は戻ってきたからお前の番だって先生が言ってたぜ」


「ま、マジか……」


「みんな楽しみにしてるよ。なにせ昨日の授業がめっちゃ楽しかったから」


「ハードル上げるなって!」


知りたいことはわからないまま、知りたくもないことを知ってしまった。

授業するネタを授業中も考えまくって気が付けば5時間目。


「どうしよう……」


準備も何もしていなかったので、

自分の教科書とノートをもってこれまでの授業を振り返るクソつまらない総集編をやることになった。


だが、俺の予想に反して、クラスメートはみな食い入るように見ていた。


(こんな一度やった授業の内容を復習しているだけなのに

 なんだ! この熱い視線は!? 今にも溶けそうだ!!)


誰か1人くらいは寝落ちするかと思っていたのに、

全員がずっと目を見開いたまま、視線をそらせることなく授業に集中していた。


「授業ってこんなに楽しかったんだ……!」


生徒に注目される心地よさを十二分に感じて授業は終わった。

どうやら自分でも気づかなかったが、人を引き付けるカリスマがあったらしい。


授業が終わると、みんなキャッキャと楽しそうに授業を振り返っていた。


ハリウッドスターのような足取りで俺もその輪の中に加わる。


「やぁ、やぁ。みんな、今日の授業は本当に楽しんでくれたみたいだね。

 こんなにもみんなに注目されるのなら、明日も授業しちゃおうかな」



「……は? 何言ってんの?」


反応は冷たいものだった。

授業中の熱い視線はいったいどこへ。


「えええ!? なんで!? みんなあんなに注目してくれたじゃん!」


「そっか。あんた、昨日の授業参加してないもんね」


クラスメートは表を見せてくれた。

そこには、俺が今日の授業で取るあらゆる行動が予想されて書き込まれていた。



「昨日の授業はギャンブルの面白さを伝えるって授業だったの。

 今日の授業内容であんたが何をするか、

 今日の授業であんたがどんな言葉を言うか予想してみんなで賭けてたの。

 

 賭けって不思議ね。クソつまらない授業でも、当たりはずれがあると、こんなにドキドキできるんだもの!!」

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