#3 授業開始

 英雄科と魔王科の統合が宣言され、そんな中クラス委員に選任されてしまった悠真。

 激動の一日を何とか乗り切った彼は、新学期一回目の授業に参加していた。



「まさかフィオが男の娘だったなんて……」


 昨日の寮での出来事を思い出す。

 自分に与えられた部屋に入ると、そこには知り合ったばかりの美少女フィオがいたのだ。

 そして語られる衝撃の真実。なんと彼女、いや、彼は男性だったのだ。


 念の為確認したところ、やはりフィオとは相部屋のようだ。『こんなに可愛い子が女の子のはずがない』そう納得したものの、人族と魔族を相部屋にするなど、何らかの陰謀を感じるところだ。


「(厳密に言えば俺はハーフだから人族ではないんだけどな)」


 とりあえず、フィオは男であり、相部屋にはなんの問題もないということで一件落着した。

 悠真としてはフィオを男扱いするには違和感がとてつもないため、いままでどおり接することにした。


 そして今日、クラスの皆にその話をしたところ、度肝を抜かしていたものだ。

 特に男共のあの微妙な表情、傑作だったな。



「――次に、人族と魔族についてだ」


 おっと今は授業中だったな。集中せねば。


 初回ということもあって、授業内容は学院のシステムなど基本的なことだ。

 英雄科と魔王科は統合されたが、全ての授業を一緒に受けるというわけではないらしい。カリキュラム的にどうしても別々になることはあるからな。


「皆も知っての通り、魔族は魔法を扱うことができる。魔法は地水火風闇光の属性に分類されるが、これらは主に研究者によって決められた区分だ。史上最高の魔法使いと言われる、かの魔王インドラの有名な格言に『魔法に不可能はない』というものがある。属性にとらわれず、工夫次第で何でもできるという考え方が近年のトレンドだな」


 近年、研究によって魔法の体系に変化がもたらされた。千年前に実在した魔王インドラに準じた魔法理論だ。世界を破滅に導こうとした大魔王だが、魔法に関してのみその評価が見直されている。しかし、それによって魔王インドラを崇拝する魔族が表立ってきているのは問題だ。


 実際、魔法の汎用性は高い。術者の想像力によって大抵のことはできる。だが、この世界は科学が発達していない。その事象がどのようにして起こるのか、理屈を理解していなければ大したことはできない。前世の記憶――すなわち化学や物理の知識――を持つ悠真は、魔法の恐ろしさを誰よりも理解している。

 しかし、魔法は術者の魔力を消費する。魔力が足りなかったり、切れてしまっては魔法は発動しない。


「一方、人族は魔法を使うことはできないが、超常の力を使うことができる。一般に超能力、〈能力アビリティ〉と呼ばれているな。こちらは生まれ持った才能に近い。一人につき一種の能力を持ち、その種類は千差万別。魔法のような汎用性は無いが、基本的に能力者の意識がある限り使い放題だ。魔力の代わりに精神力が関係しているなどの説があるが、詳しくは研究中だな。そして、魔法とこの超能力を合わせて魔導と呼ばれる」


 人族の〈能力アビリティ〉ははっきり言ってピンキリだ。"物の温度が正確に分かる"というものから"電撃を操る"というものまである。最も有名なところで言えば、勇者フォルスの〈勇武〉だろう。折れない心がある限り、心が震えるほど力が湧くというパッシブ系の能力だ。

 人族と魔族のハーフである悠真が、人族として学院に通っているのもこの〈能力アビリティ〉を持っているためだ。


 このような違いがあるため、英雄科と魔王科はカリキュラムが違ってくるのだ。

 とはいえ、実技の授業は一緒だ。エリート科だけあって、戦闘に特化した者が多い。より多くの経験を積むため、模擬戦の相手は多いほうがいいのだ。



 つまらない授業が終わると、マッケンジーが絡んできた。


「おい貴様。次の授業だが――」


「パーリナイ、話しかけられてるぞ」


「パリ!?」


「――違うッ!六万悠真貴様だ!貴様のそのバカにしたような態度が気に入らんのだ!」


 そうか?最初から絡んできてた気がするが。


「次の実技の授業だが、僕と模擬戦をしてもらうぞ。教官は魔族でな、もう話はつけてある。力の差というものを見せてやろう。怖気づいたというのなら構わんがな」


 なまじ権力を持ってるからやっかいなんだよなぁ。


「いいだろう。受けて立つ(ここらで活躍して落ちこぼれの汚名を返上させてもらうとするか)」


 悠真はこの学院に入学して以来、まともに能力を使って戦ったことはない。つまり、今日初めてその力が衆目にさらされることになる。数ある〈能力アビリティ〉の中でも、最強の一角に数えられるチカラが。



 学院は五塔を頂点とした五角形になっているが、その中心には円形闘技場コロシアムがある。毎年行われる武闘会や、魔導を扱う実技の授業などで使われる。グラウンドの代わりだな。


 

「――さて、集まったかな。実技を担当させていただく、ギーファだ。よろしく」


 魔導実技の授業のため、俺たちはコロシアムに集まっていた。


「まずはじめに、君たちの実力を見せてもらう――と言いたいところだが、今年は粒揃いだと聞いている。そうだな、実力のある者に皆の手本となるように模擬戦をしてもらいたい」


「では僕が――」


 即座にマッケンジーが立候補する。そして相手として悠真が指名された。


 開始位置につき、向かい合う二人。

 悠真は訓練用の木剣を手にしている。一方、マッケンジーの手に武器はない。魔法を使うマッケンジーにとって、武器は不要なのだ。


「覚悟は良いか?落ちこぼれ。魔法も使えない劣等種族が。お前たち人族が魔族の足元にも及ばないということを証明してやろう」


「おいおい、こんな落ちこぼれを甚振って楽しいのか?それに、俺に負けたら大恥じゃ済まないぜ?」


「ほざけ。貴様ら劣等種が魔族と対等だと思っていることが許せないのだ!貴様がいかに矮小な存在であるか、その身に刻んでやろう!」



 クラスメートが見守る中、人族と魔族の戦いが幕を開ける。

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ヴィスティス魔導学院の魔王 @2Hz

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