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正門を出てすぐのところに出店はあった。派手な紅白のテントの下、やたら元気そうな初老の男性が手の甲を揉みながら「いらっしゃい」と声を張る。
「ラムネ、冷えてるよッ」
ケースの中は氷水で満たされていて、ガラスの瓶が無数に浮かんでいた。濃い赤色のものもいくらか混じっていて、これはどうも苺味のようである。露出した腕や顔まで冷気は届く。
「こら確かにキンキンだぁな」
「ね」
「すんません、ラムネ――普通の二本でいいか」
ハルイチが頷いたのを確認して、キヨトは「二本」とピースサインを作って見せた。あいよッ、一八〇円、という威勢の良い返事とともに店主が腕ごと氷水へ突っ込んだ。冷たいのを通り越して痛そうだなあ、とハルイチが笑う。
「慣れてるんでね。ほい」
突き出された右手の指には、器用に薄青色のラムネの瓶が二本挟み込まれていた。キヨトが受け取って、ハルイチは店主の濡れていない左手に、百円硬貨を二枚載せた。十円玉が二枚返される。それを見てキヨトが「あ」と声を上げる。
「ごめん、出すの忘れてた。戻ってから払う」
慌てたキヨトに向けて、ハルイチは先刻までのニヤニヤ笑いとは違った笑みを浮かべた。
「呼んだの俺だから」
「でも」
「今度」
ハルイチは言い募る相手にわざと被せるように、短く言葉を発した。少しだけ気圧されるキヨト。一八〇センチをゆうに超える、やや威圧感のある風貌の成人男性が困惑しているのは、ちょっと可笑しい。
「え?」
「次、なんか飲む時、九〇円分出して。いい?」
思いもよらぬ提案にキヨトは目を瞬かせるが、やがて、ふふ、と笑った。
「九〇円て。百円出すよ」
「ラッキ」
振り返る彼は、真っ黒な髪をかきあげて、またニヤニヤしていた。
キヨハル(Pilot Version) 冴草 @roll_top
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