第2話 出会い
昨夜、再び事件が起こったらしい。幸い命を落とすことはなかったものの、この数週間での被害は二桁に及ぶこととなる。
事件が起こるのは夜、それも十時から深夜に掛けての間が一番多い。平均二人から三人が襲われており被害者はどれも女性に限っている。警官のパトロールも強化されているにも関わらず、未だこれだけに被害を出しているのは正直驚きだ。
「やっぱりこれは単なる通り魔的な事件じゃないね」
間宮まずなは今までの起きた事件現場周辺を周り歩きながら事件の情報を整理していた。
開始早々、調査に行き詰まったなずなはつい先日まで、数日間かけてとりあえず吸血鬼の伝説についてあらゆる媒体を用いて探し回った。
結果、当然手がかりになりそうなものは何一つ出てこなかったが、それでも必ずしも無意味な行動だったとは思ってはいない。こういう一見、無意味に思えるような行動こそが後の伏線となることもあると、刑事ドラマをよく観るなずなは知っている。
そして、次になずなが取った行動は、今行っている行動、つまりは事件現場を巡ることだった。正直、これも大した成果はないと踏んではいたものの、それでもこれぐらいしか手がかりを掴む方法は見つかりそうもなかった。
事件現場周辺を巡って二日目になるが、まあ当たり前に有益な情報は見当たるはずもない。もしも目に見えた形で手がかりが残されていたならば、警察がとっくのとうに見つけているだろう。プロですら掴めないものを素人のなずなが掴めるはずがなかった。
「あー、今日も手がかりはなしかー。やっぱり無茶だったかなぁ。紅い瞳を追う! だなんて」
そうなずなぼそりと呟いたときのことであった。その人がなずなに話しかけてきたのは。
「あ、あの!」
良く通るテノールボイスがなずなの背後から聞こえた。なずなが誰だろうと振り向くと、そこには一人の女性が立っていた。
白いワイシャツと黒色のパンツスーツ。髪はやや赤ずんだ茶色で、少しタレ目なところから若干の頼りのない印象を受ける。
歳はまだ若そうだった。それこそ大学を出たばかりの新入社員のような、若々しさ、というより――失礼な言い方かも知れないが――未熟さのようなものが雰囲気の中には存在していた。
「えっと、あなたは」
なずなが訝しげな目つきで見ていることに気がついたのか、女性はわたわたと表情や手を動かしながら半ば叫ぶように「私、怪しい者じゃございませんっ!」と言った。
女性は鞄――少し大きめの肩掛けバッグ――をごそごそと漁り、何かをとりだそうとしていた。少ししてようやく目的の物が見つかったのか、ほっと息をつきながら知れを鞄から取り出した。
「あの私、怪しい者じゃなくて、ええっと、こ、こういうものなんですっ――ってああああぁあっ!」
言い切るか言い切らないぐらいのタイミングで名刺ケースが女性の手からこぼれ落ちる。不運にも下に落ちた名刺ケースからは何枚もの名刺が地面にばら撒かれた。
慌てる女性を未だ警戒の目で見ながら、なずなはばら撒かれた名刺を拾い集める。
その時なずなは名刺に書かれている文字を見て一瞬動きを止めた。
「あ、ありがとうございます。拾って頂いて」
そんな女性の声などなずなの耳には半分入っていなかった。
「あの、この名刺」
なずなはまだ一枚、手に持ったままの名刺を見て呟いた。
「あっ、すみません。自己紹介がまだでしたね。私、月間オカルト大発見という雑誌の元で記者をしている、糸那朱鳥と言います」
月間オカルト大発見。その雑誌には聞き覚えがあった。というよりつい最近なずなが購入した雑誌だった。
「もしかして。この雑誌、の?」
なずなは学生鞄から切り抜いた記事を取り出して女性――朱鳥へと見せる。
「あっ、それちょうど私が書いた記事です! 読んでくださったんですか? わーありがとうございます!」
締りのない顔で喜ぶ朱鳥を横目になずなはこんな偶然が起こるものなのかと驚きに目を見開くと、ようやく動きかけた展開にほんの僅かに口角を持ち上げたのだった。
鬼と事件と紅い瞳 菖蒲 @ayame11
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