幕間 「紅い瞳」再び

 ――紅は笑う。

 ――瞳を爛々と輝かせ、また獲物が来たと笑う。


「それでさー」

 女が一人やってくる。

 見覚えのある制服を着た彼女は、スマートフォンを片手に通話をしながら歩いていた。これからなにが起こるとも知らずに、ただ楽しげに。

 

 ――虎視眈々と自分を狙う瞳に女は気づかない。


 電灯の光が途切れ、女が暗闇へと足を踏み入れた。その瞬間を紅は見逃さない。

 紅は駆ける。闇の中、風を切り、獲物の背後へと回り込む。


 ――さあ、お前はどんな味がする?


 女の口が塞がれる。怪力と言えるほどの強い力は、女の身体を容易に拘束する。

「ん゛ん、ん゛んー!!」

 紅い瞳をした何かは腕の中で無意味に藻掻く女の脆弱たる様を一笑すると、女の柔い首筋へと口を添え、鋭利な牙を突き立てた。

「ん゛んーん゛んん゛んんん」

 びくんと女の身体が跳ねる。

 彼女はしばらくの間、じたりばたりと抵抗したが、それはそんな抵抗に意を返さず、容赦なく血液を吸い上げる。


 彼女が抵抗する力を失い、意識を手放すまで、五分と時間はかからなかった。


 彼女から血液を奪い取った者は、意識のない彼女に対し興味を失ったのか、無造作に放り捨てると、再び闇夜に紛れ次の獲物を探しにいく。

 

 倒れる被害者の近くでは、襲われた際に彼女の手から零れ落ちたスマートフォンから通話相手の心配に叫ぶ声が聞こえ続けていた――。

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