第1.5話 伏見蓮華の事情-1-
――好奇心は猫をも殺すという言葉があるように好奇心というものはまこと厄介な代物だ。知らないままの方がよほど幸せなことだというのに。
蓮華は鏡に写る自らの姿をしげしげと見つめた。細い、肉付きの薄い身体はとても高校生のものとは思えないほどに未成熟であり、また病的なまでに白い肌は日本人離れしていて、ともすれば雪女かなにかのような、異質ささえあった。
蓮華の成長が止まったのは僅か小学五年生のときだった。まるで変化を拒むかのように、それこそピタリと蓮華の成長は停止した。それは何も身長だけには限らない。体重、聴力、視力、そのいづれも変化することはなくなった。
吸血鬼の噂を聞いたとき、表には出さなかったが、内心、蓮華の胸にぞわりと悪寒のようなものが走ったことを思い出す。
あのときの自分はこの悪寒の正体を馬鹿げた噂に対する嫌悪感だと考えたが、もしかすると、これはもっと恐ろしいことを示唆しているのかもしれなかった。それこそ常々疑問に思っていた蓮華の最も考えたくない可能性、とても重要な、ともすれば自分という存在を揺るがしかねない事実に迫るほどの。
漠然とした恐怖感が自己の良からぬ空想を掻き立てていく。
――蓮華の思考の隅で
――知っている。私が本当は、本当は■■■だということを。
「そんなわけない。私は、人間だ」
彼女は自身の中に芽生えた馬鹿げた思考を振り払うように首を横に振ると、姿見をばたりと乱暴に閉じた。俯く彼女はただひたすら「私は人間だ」と呟き続ける。まるで自分自身にそう言い聞かせるように。
――彼女は気づかない。
――鏡の中の蓮華の瞳が僅かに紅く染まっていたことに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます