§28
「でもね、実は的形さんは好きな相手がいるんだよ。あのクラスに」
帰りの電車で千咲がそんな事をいう。
「そうなのか。知らなかったな」
「八家さんも知っているけれどね、あえてあの場では言わなかったの。本人もあのクラスにいるし。
全然気づかなかった。
「告白とかはしたのかな」
「まだみたい。前は同じ高校受かったら頑張るって言っていた。だからどうなるかはわからないけれどね」
なるほどな。
高校デビューは明石だけじゃない訳か。
さて俺と千咲についてだが、当分は現状維持という事で合意した。
つまり特に特別な事もしない今まで通りの間柄でいようと。
これは基本的に俺の意見だけれど千咲はあっさり受け入れてくれた。
「お兄も私を好きだと確認出来たからね。だから急ぐ必要は無くなったかな」
そんな恥ずかしい事を臆面も無く言って。
ちなみに昨日、俺の家メール設定をスマホにも入れた。
だから父母から第2弾のメールが来ているのを俺は知っている。
今度は父母別々、更に俺と千咲別々のものだ。
父のメールは行動抑止推奨系、母のメールは現状更に推進推奨系。
父親と母親の違いというのがよくわかる。
でも本当に千咲と結婚となったらどういう挨拶を両親としたらいいのだろうか。
なかなか妙な状況になりそうだ。
まだまだ当分先の話だろうけれど。
「ただ、本当に千咲、俺でいいのか。変更はいくらでも受け付けるぞ」
「私はお兄の変更を受け付ける気はないよ」
おいおい。
「あんまりそういう事を言うと悩殺作戦を再開するよ。お母さんが帰ってきても構わずに毎日泊まり込みで。もう了解はとってあるから」
つまり風呂突入だの下着姿うろうろだのベッド侵入だのをやるぞという事か。
あれをやられると健全な青少年としては非常に苦しいんだよな。
もう『千咲は妹』という呪文の効果も無くなったし。
「頼むからそれは勘弁してくれ」
そう言ってから気づいた。
「という事は、そっちも個別メール行っている訳か。お母さんと、多分お父さんも」
「勿論。書き方はきっと違うけれど内容は同じだと思うよ」
なるほど。
「つまりお父さんからは節制しろと書かれ、お母さんはどんどんやれと」
「その通り」
はあ。
まあどう書かれていようと、俺は俺なりにやっていくしかないけれど。
電車が停まる。
俺達の降りる駅だ。
他の数人の高校生風と一緒に下りて、階段の方へ歩こうとした時。
千咲が急に脇にそれる。
何だろう。
「お兄、あれ、階段のところ」
見ると俺達と同じ制服の2人組が話しながら階段を登っているところだった。
後ろ姿でも誰かわかる。
的形さんと舞子だ。
「何気にいつも一緒に帰っているんだよ。だから同じ駅だけれど私や八家さんと一緒に帰らないわけ」
「八家さんは」
「バイク屋デート中」
皆さん色々春なようだ。
「でもまあ、私はお兄がいるから充分かな」
おいおい。
そう思ったところで千咲にいきなり頬にキスされた。
「お兄、大好きだよ」
属性は何を選択すればお嫁さんにしてくれますか?~でも妹とは結婚できません! 於田縫紀 @otanuki
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