終章 俺と千咲の今日と明日

第10話 それぞれの春

§27

「そんな訳で現状維持だな、しばらくは」

 毎度の昼食タイム。

 取り敢えず昨日のメールの内容その他をささっと伝える。


「普通はそこで『私は血が繋がって無いの。じゃあ兄妹じゃないの』という疑問とか悩みとかあるんだけれどさ。何かそっちには無さそうだよね」


「それは思い浮かばなかったなあ。よし、これで法律の障害も無くなった、としか」


「俺もだな。絶対これで千咲がもうアタックを掛けてくるから、どうやって引きずられないようにしようかと思ったくらいで」


「色々ややこしい家族だよな、お前らの処」

 明石がそう言って苦笑する。

「でもまあ幸せなのは何よりだ」


「幸せと言えば八家っちと明石も何か怪しいんでない」

 的形さんが突っ込む。

「お泊まり会で妙に仲良さそうになったかと思えば、早速昨日の帰りに一緒に何処かに消えたし」


 あ、2人の態度が若干変化した。


「いやいや、あれは八家さんが今度原付の免許をとりたいと言うから、用品とか実物バイクを見にバイク店に行っただけでさ」

 明石、明らかにいつもより早口だ。


「私ももうすぐ誕生日なので免許を取ろうと思ったんです。上手く親にねだれればGWまでにはスクーターに乗れるかなという感じです」

 八家さんも。


「バイクは親に反対されてなかったかな?」

 確かそんな事を聞いたような。


「明石さんと2人で言い訳を考えたんです。家が駅から遠いのを理由にしました。塾に通った時に夜遅くなるとバスが少ないですし、そんな中女の子1人がバス待ちするよりはスクーターでさっさと帰った方が安全ではないだろうかって。

 昨晩両親に相談した結果、乗ってもいいと言っていただけました」


「ふーん、明石がねえ」

 的形さんがジト目で八家さんと明石と交互に見る。

「それで仲良く2人でデートツーリングでも行こうって言っているんでしょ」


 返答が返ってこない。

 でも2人の表情を見れば答は一目瞭然だ。


「私もたまにはお兄と休日デートしたいな」

 千咲がそんな事をいう。


「わざわざデートなんてしなくてもいつも一緒だろ」

「それはそれ、これはこれ」


「はあっ」

 的形さんが深い深いため息をついた。


「あーあ、結局2人とも春モードか。私も誰か彼氏が欲しいよお。

 この学校だったらやっぱりこのクラスよね。普通クラスとは難易度も進学実績も違うし。出来れば同じ大学に行きたいじゃん」


 男子グループのいくつかがすっと会話のボリュームを下げた気がした。

 おいおいおい。

 気配見え見えだぞ。

 でも的形さんはそれに気づいてか気づかないでか、話を続ける。


「ねえ、どんな属性にしたら彼氏が作れると主う、やっぱり妹タイプとかお嬢様型かな。それともツンデレ?まさか病ンデレとか」


 おいおいおい。


「別に的形はそのままでいいと思うぞ」

「相手のある奴にそう言われてもしょうが無いの!」

 はいはい。


「でも的形の病ンデレというのは一度見て見たいぞ、怖いもの見たさという奴でさ。女王様系は想像つくから面白く無い」

 おいおい。


「なんちゅう想像しているのだ、明石貴様は」

「そうですよ明石さん」


 俺と八家さんが突っ込む。

 更に的形さんがとどめ。


「明石が想像していいのは八家ちんのだけ!」

 あ、2人とも黙ってしまった。

 何でも知っている明石だがこの方面は得意ではないようだ。

 色々見え見えで面白い。

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