§26

「生まれた時の経緯をこうやって知っても、正直なところ生物的な両親に会いたいとは思わないんだ。知識としては知りたいと思わなくも無いけれどね。もう両親は今の両親しか認識できないと思うし納得出来ないと思う。お兄についても同じ。

 それでも何故かお兄とはずっと一章一緒にいるつもりだったなあ。理由はわからないけれど」


「実際は俺も変わらないな。父も母も良くやったと思う」


 よく千咲を引き取ろうと決意して、そして動いてくれたなと感謝してしまう。

 おかげで千咲が今横にいてくれる訳で。

 言い方は変かもしれないが、グッドジョブと大声で言いたいくらいだ。


「私はそういう訳だけれど、お兄は本当にいいの。私がいるという事を後悔していない?」

「いや、多分俺も千咲がいてくれると嬉しいんだ。それはきっと最初に会った時からなんだろうな」


 流石に新生児の時の記憶は無い。

 遡れるのは幼稚園の頃まで。

 でも俺の記憶の視野にはだいたい千咲が入っている。


「なら今後もずっと一緒にいてくれる」

「勿論」


 そう返答したところで、千咲はにやりと笑った。

 いつの間にか手元にスマホを持っている。


「いまの言質とったからね。しっかり録音済」


 スマホの画面はボイスレコーダーアプリになっていた。

 おいおい、そんな用意を今の状態でしていたのかよ。

 色々タフだなあと思う。

 でも、まあ。

「別にいいぞ。訂正するつもりもないし」


 そう、俺も結局千咲無しではいられないのだ。

 元々わかってはいたのだけれど。


「ただせめて高校卒業くらいまでは普通の兄妹関係でいいだろ。お母さんの18歳になったら知らせるというのはそういう意味も含んでいると思うぞ」

「うん、わかった。元々色々していたのは私に振り向いていて欲しいからだしね」


 そうなのか。

 微妙に残念な気もするが、まあ俺の精神安定にはいいだろう。

 毎日裸エプロンだの風呂侵入だのやられたらそのうち理性が持たなくなる。


「でもお兄のタイプとしてはどんな感じが好き?何属性がいい?妹だけじゃなくて幼なじみでもお姉さんでも運命の人でも」


「今の千咲で必要十分。それに千咲、俺もタイプを変えるといったらどうする?」


「うーん」

 千咲、マジで考えている模様。


「そうだね。もう少し服装には気を使って欲しいかな。あと髪が時々寝癖のまま。眼鏡もも少しデザイン変えた方が似合うと思うよ。他にはね……」


「おいおい、随分注文が多いな」

 想定外だぞそれは。


「そりゃそうだよ。私はお兄しか見てないんだもの。お兄でなくちゃ駄目なんだもの。だから他の誰でも無いお兄を理想に近づけなきゃ」


「勘弁してくれ」

 色々とまた大変そうだ。

 聞かなければよかった。


「でもまあ、私の理想の最低条件はお兄自身でいること、かな」

 恥ずかしい事を言ってくれる。

 まあこの場は千咲と2人だから大丈夫だけれど。


「まあそんなところだから、これからも宜しくね」

「ああ。何ならもう一度言うから録音するか」


「ううん、充分だよ」

 千咲は微笑む。


「お兄が言っている事が嘘じゃない位わかるしね。長い付き合いだもん」

「出生後1時間後位からだしな」

「そうだね」 

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