§25
家に帰ってパソコンを見て見ると、メールが入っていた。
送信先アドレスは父のもの。
宛先欄から俺と千咲両方に送っているのがわかる。
取り敢えずパソコンを持ってリビングへ。
「千咲、メールの返答読んだか」
「まだ。ここには私のパソコンメールの設定はいれていないし。Webメール起動すれば読めるけれど」
「なら読むか」
「うん」
並んで応接セットの長椅子に座る。
2人で一緒にノートパソコンの画面を覗き込む。
メールそのものは父からだが、中は父からの部分と母からの部分に分かれていた。
それぞれの視点で俺が生まれた直後から何が起きたかが書いてある。
それぞれの記述から事実を追っていくとこんな感じだ。
俺が生まれたのと同じ日、同じ病院でもう1人女の子が生まれた。
生まれたのが近かったからか、俺とその子は新生児室の廊下側窓際の列、隣同士のベッドにいたそうだ。
だから俺の様子を見に行くと必ず目に入る。
そして俺は必ずその子の側を、その子は必ず俺の側に顔を向けていたそうだ。
偶然だろうけれどお互いに何か言い合うように全身を動かしたりもしていて。
出生2日目にはもう何となくその子にも情が移ってしまった状態だったそうだ。
ただその時、母は看護婦の立ち話からある事実を知る。
その子の母親は退院すると共に失踪。
現在は他の家族とともに病院側から連絡不能になっている事を。
このままだと児童相談所経由で何処かの養育機関へと送られる事になるだろうと。
そこからの父の行動は早かったそうだ。
会社で付き合いがある弁護士とかその知り合いとかを動かして、俺の退院までの4日間にその子を家に引き取る手続きをしてしまったそうだ。
父曰く『かなり強引な方法をとった』との事。
その六ヶ月後に裁判所による特別養子縁組の審判が確定。
めでたくその子は長女として戸籍にも記載された。
そこまでしてしまった理由として、母は『まるで見るたびに2人が『一緒に連れていって』とアピールしているように見えた』と書いている。
もう退院前には『どっちも自分の子にしか見えなかった』そうだ。
父も若干抑えた表現だが似たような事を書いている。
なおこの件を今まで伝えなかった事についてだが、母は『18歳になったら両方に言おうと思っていた』と書いていて、父は『そのうち戸籍の表記等から気づくだろうと思っていた』と書いていた。
「どうする、そっちのスマホに転送しようか」
「大丈夫、Webメールから私のアドレス呼び出せるから」
そう言って千咲はふっと息をついた。
「何か昔から変わらないんだね、私」
「どういう事」
「常に私がお兄にくっついてっている処」
何だそれ。
「確かに高校に関してはそうかな」
「それだけじゃないよ。幼稚園の頃からずっとそう。大体お兄の行く追ってついていっていたもの。お母さん達が離婚した時もそう。新しい家に行かないでこっちに毎日帰っていた。お兄と一緒にいたかったから。
それは今でも変わらないよ」
「そうか」
思い当たるところはいっぱいある。
それに俺自身も千咲がそばにいて欲しかった。
だから家出してきた時も一緒にいることが嬉しかった。
俺と同じ高校を受けると決めた時は当初の目的を忘れて本気で色々サポートした。
「お互い様ってところかな、実際」
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