キングファング
翌日。昼頃。
ルルはラムザクトリーのアジトの部屋で昼食をとっていた。彼女が雇っているシェフは腕前が一流で、運ばれてくる料理はどれも豪華で洒落ていて美味しい。まるで高級レストランで食事をしている気分であった。
メインディッシュに舌鼓を打っている最中に、ラムザクトリーがノックも無しにやってきた。
「ルル。大変よ」
「なんだ。ラム。せっかくのディナーに水を差すなよ」
「あなたが捕まえてきてくれたチンピラが情報を吐いたのだけれど、奴はビーストサンダーというギャングの下っ端だそうよ」
ナイフとフォークを持っている彼の手がピタリと止まった。
「ビーストサンダー・・・。確か、キングファングの下っ端ギャングだったか?」
「ええ。奴等が透明人間を使って、アンガー・シンをフリークスバイキングに広めていた組織よ」
「・・・そのギャングも、使われていたんじゃないのか?」
「気付きが早いわね」
「ただのギャングにアンガー・シンを製造することも買うことも無理だ。てことは、それが可能なデカい組織が、ビーストサンダーにアンガー・シンをこのシマに流すように提供したんじゃないのか? そしてビーストサンダーは足を掴まれないように、無関係な透明人間の売人を使っていたってところか」
「正解よ」
「それで、問題の提供先はどこだ?」
「残念だけど、チンピラでは知らなかったみたいね。ビーストサンダーの幹部から命じられただけだそうよ」
「つまり、幹部連中なら知っているということだな。だが、そこが問題だな」
「ええ。ビーストサンダーはキングファングの息がかかっているわ。アジトに攻めていけば間違いなくキングファングの連中が黙っていないでしょうね。私達とキングファングが抗争を始めれば、ファーザーに殺されてしまうわ。
かといって、キングファングにこの事を話していいものか。一番怪しいのは、ビーストサンダーの主人であるキングファングなのよね。彼等なら命令一つでビーストサンダーを動かせるわけだし、アンガー・シンを製造できるすべも繋がりもあるでしょうし・・・」
「だが、あの男がヤクを使って人様のシマを荒らすマネをすると思うか? 第一これはファーザーを裏切る行為だぞ。あの男には考えられない」
「私もそう考えたのだけれど、あくまで表面上のイメージでしょ? それを根拠にするのは弱すぎると思うの。それに、誰かに唆されている可能性もあるでしょう?」
「・・・確かにそうだが」
「どうしたものかしら。私や組員がキングファングを訪ねるのはリスクがあるわ。本来ならファーザーにこの事を報告して緊急幹部集会を開くのが良いのでしょうけれど、もしキングファングが黒幕なら、集会前に証拠を隠滅される恐れがあるわ。そうなったら逃げられてしまう・・・。
ルル。なにか良い手はないかしら?」
「・・・分かった。俺がティガに聞きに行ってやる」
「それはダメよっ。もし黒幕ならあなたが無事に済まないわっ。危険よっ」
「危険でもここは行く手しかないぞ。透明人間にアンガー・シンを渡しに向かった奴と、その護衛の奴が一晩経っても戻ってきていないんだ。ビーストサンダーの連中はなにかあったと考えているはず。少しすれば取引が失敗して仲間が捕まったことぐらい掴むだろう。そうなれば、証拠を隠滅されてこの件は迷宮入りになること確実だ。
そうならないためにも、ここはリスクを背負って向かう他ない。それにもし俺が戻ってこなければ、キングファングが黒だという証拠にもなる。ファーザーに報告すれば、ファミリー全員が動くことになり、キングファングの悪事が明るみになるだろう」
「な、なら部下達を同行させて・・・」
「それはダメだ。ビーストサンダーの連中に見られたら一発で勘付かれてしまい、すぐに証拠を消すだろう。キングファングも同様だ。
ならここは、親友の来訪ということにして、俺だけの方が良い。それなら疑われずに済むだろう。向こうは俺がこの件に加わっていることは知らないからな」
ルルはガタッと席を立つ。
「シェフに料理を残したこと、謝っといてくれ。夕方には戻る」
そう言って、彼はムーンプルのアジトを後にした。
〇
フリークスバトラー。フリークスロート大都市にある六つのタウンの一つ。
格闘が盛んなところで、血気盛んなモンスターや格闘技好きなどが住んでいるタウンだ。そのため路上ではいつもストリートファイトが起こり、スタジアムやホールなどでは毎日格闘技の催しが開かれる。
この修羅のタウンを治めるのが『キングファング』というビーストマフィアである。
パワーポネッド直下のマフィアの中でも高い戦闘力を誇る肉体派集団で、構成員は獣系統のモンスターばかりである。
そんな血の気が多い獣モンスターを束ねているのが、ティガという人虎である。
性格は短気で豪快。愚直で知能は高くないが腕っぷしが強く、気に入った相手は敵だろうがなんだろうが親しく接する。簡単に言えばガキ大将である。
そのガキ大将気質のティガに会うために、ルルはフリークスバトラーへやってきた。
道中で血の気の多い輩に絡まれたりしたが、無視してキングファングのアジトへ到着した。―あまりにしつこい奴は頭部を壁にめり込ませたりしたが・・・。
キングファングのアジトはおどろおどろしい雰囲気がある。塀の壁にはスプレーやペンキなどでビッシリと落書きされてあって、建物も落書きはもちろんヒビや割れた窓などが目立つ。廃墟と言われても違和感がないほどだ。
門などはなく敷地には誰でも入れるようになっているが、そこら中にたむろしているキングファングの組員達が部外者を入れないように目を光らせている。
それでもルルはその敷地内へと入っていった。
一番近いグループが立ち上がり、ガラ悪くルルに歩み寄る。
「おう。優しそうな兄ちゃん。ここになんか用か? コラ」
「腕が無くならないうちに、お家に帰りなっ」
組員達が凄んでくるが、ルルは平然と
「ティガはいるか?」
「あぁ!? てめえ馴れ馴れしくボスの名を口にしてんじゃねえぞっ!?」
「どこのどいつだっ!? おうゴラっ!」
「いるならルルが会いに来たと伝えてほしいんだが・・・」
彼の名を聞いて、組員達は顔を見合わせた。
「ルル・・・? もしかして、てめえ・・・じゃなくてっ! あ、あなたは狼の舌ってバーをやってる、狼男のルルさんですかっ!?」
「そうだ。それで、ティガはいるか?」
「「「ス、スンマセンっしたぁああ!」」」
全員が頭を下げて無礼を詫びた。
「ル、ルルさんとは知らず無礼なマネしてスンマセンしたっ! ボスに会いに来たんですね!? いますっ! こちらへどうぞっ!」
小さな酒場のヴァラヴォルフ @Gosakuri
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。小さな酒場のヴァラヴォルフの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます