属性は何を選択すればお嫁さんにしてくれますか?

文車 九十九

とりあえずケモノ属性でいいですか?

「ごしゅじん、ごしゅじん」


 次の街を目指しての冒険中に、パートナーモンスターが話しかけてくる。


「どうかしたか?」

「進化ですよ、進化!」


「……え!?」


 ギョッとしてパートナーのちっこい体に目を向けてみると、何やらプルプルと振動しつつ発光していた。

 ごめん、視界の隅でプルプル震えているのは見えてたんだが、てっきりトイレにでも行きたいのかと思ってスルーしてた。

 というか、なんで戦闘終了後とか特別なアイテムを使ったとかじゃなくて、移動中にいきなり進化しようとしてるのキミ。 


「ついにボクも上級種族の仲間入りですよー」

「あぁ、うん。 そうだね」


 不意打ちすぎて素直に喜べない。

 もうちょっと感動的なシーンで進化してほしかった。さっきまで次の街に着いたら何が食べたいかとか会話してたじゃん、なんでそのすぐ後に進化するの?


「ところでごしゅじん」

「振動+発光しながら話しかけないでほしいかな、声が震えて聞こえるんだけど」

「属性は何を選択すればお嫁さんにしてくれますか?」

「んんん??」


 変なこと言い出した。

 いや、今までも「ごしゅじんのお嫁さんになりたいです」とか街中で発言かまして、周囲の人から僕が凄い目で見られた事が何度もあったし、突然とかではないんだけど…………属性?

 キミって進化先が選べるタイプのモンスターだったの?


「ボクとしては人獣型のケモノ属性がいいなーって思うんですけど」

「ケモノ属性ってこれからの冒険を考えるとハズレでしかないと思うんだけど」

「冒険とかもうどうでもよくないですか?」

「こら」


 いきなり今の状況を全否定するんじゃありません。

 2人で最強のモンスターマスターを目指そうって約束したじゃないか。あの約束はどうなるんだよ。


「ごしゅじんのお嫁さんになれるんなら別にいいかなーと」


 恐ろしいことを言い出した。

 むかし、愛は人を変えるって聞いたときは、そんな馬鹿なって思ってたけど、いざ当事者になってしまうと全然馬鹿にできないじゃないか。

 確かに、このセリフを教えてくれたお隣のジェイコブ兄ちゃんはストーカで衛兵さんに連れていかれたし、まさに愛は人を変えてしまうのだろう。


「というか、そんなに選べるほど属性があるのか?」

「はい、えーっと。 みず・ほのお・ムシ・ひかり・サカナ・ケモノ・かぜ、の7属性です」

「思ってた以上に多いな!?」


 しかも、殆ど存在が確認されていないひかり属性まであるの!?

 というか、よくこの中からケモノ属性を選んだな。どう考えてもハズレだろう。


「その中だと、今後を考えるとムシ属性一択じゃないか?」

「えー、ムシって気持ち悪くないです?」

「こら、世の中のムシ属性のモンスターに喧嘩売るような事いうんじゃありません」

「ぶー」


 ぶーじゃないが。

 ムシ属性は強い個体が多い反面、見た目がグロテスクなモンスターが多いのは否定しないけれども。


「ごしゅじんはムシ属性になったボクをお嫁さんにしてくれるんですか?」

「いや、しないけど」

「じゃあ、いやでーす」


 いやいや、と首をふる。


「それなら、ひかり属性はどうだ? 珍しい属性だし、強いかもしれないぞ」

「でも、前にひかり属性を見た時にごしゅじん「うわぁ」って顔してませんでした?」


 覚えていたか。

 確かに、いつだったか偶然ひかり属性のモンスターを連れたマスターと戦闘をしたことがあったが、眩しくてよく見えなかったんだよなぁ。おかげで指示も出しづらくて苦戦したもんだよ。


「ごしゅじんに「うわぁ」って顔されたくないのでいやでーす」


 またしても首をふる。


「ならサカナ属性」

「人魚型じゃなくてグッピー型みたいなんですが、それでも愛してくれますか?」

「パートナーだし愛情をもって接するけど、結婚はしないよ」

「いーやでーす」


 首をふる。


「みず属性はどうなんだ?」

「水のかたまりになるっぽいです、ごしゅじんにギュってしてもらえなくなるのでいやです」


 先に拒否って来おった。


「ほのお属性」

「浮遊する火の玉みたいです、同じくギュってしてもらえないのでナシで」


 またしても。


「かぜ」

「いやでーす」


 ついには理由すら言わなくなってしまった。


「もうケモノ属性しかないじゃないか」

「そうですよね、これはもうケモノ属性に進化して、ごしゅじんのお嫁さんになるしかないですよね」

「ケモノ属性に進化したとしてもお嫁さんにはしないよ?」

「ぶー」


 だから、ぶーじゃないが。


「もー、わがままなごしゅじんですねー」

「なんで、僕が悪いみたいになってるの。 どう考えてもキミがわがまま言ってるだけだからね?」

「お嫁さんになるための属性を聞いてるのに、全然答えてくれないじゃないですか」

「お嫁さんは僕と同じ人間種がいいんだからあきらめてほしい、って何度も言ってるんだけどなぁ」

「いやですって何度も言ってるんですけどねぇ」


 そんなこんなで、ぐだぐだになりつつも旅を続ける。

 今までは、パートナーが嫁になると発言して僕を困らせていたけど、これからは別の問題も抱えることになるのかと思うと少し頭痛がしてくる。










 進化条件を満たして、プルプルしつつも発光しながら歩くパートナーを見る。


「その振動と発光って止められないの?」

「ごしゅじんがボクをお嫁さんにしてくれるまで止まらないですねー」


 さりげなくお嫁さんにしないと止まらないという脅しをかけてくるパートナーにため息をつき、次の街に着くまでにこのプルプルピカピカしてるのを止める方法を考える。

 













 因みに、街中でプルプルピカピカしてたせいで周囲の人から僕が凄い目で見られたり、駆けつけた衛兵さんに怒られるまであと少しだという事を、この時の僕はまだ知らなかった。

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属性は何を選択すればお嫁さんにしてくれますか? 文車 九十九 @dork

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