第二十話 60年後の街角で

60年後の街角で


 チサンホテルのレストラン「だいだい」で和食をたべた。

 ひさしぶりの外食なのでふたりともなんとなくギコチナイ。

「初めてあったとき、こうして向い合って話すの……恥ずかしかった」

「映画の話をした」

「そうよ。相似形モンタージュで画面を繋ぐ技法について語っていたわね」

「麻布霞町にあった「シナリオ研究所」に通っていたから」

 映画の話となるとふたりとも饒舌になる。

 気がつくと食事はすんでいた。

 レストランの入り口から街にでる。

 彼女と熱く語りあった映画の一こまのような風景。

 知らない街にいるような錯覚にとらわれた。

「パパ」

 ふいにだいぶ離れたところから呼びかけられた。

 パパはないだろう、こんなオイボレGGにパパは――。

 ホテルの正面入り口で妻が手をふっている。

 ドキッとした。

「レジがフロントのほうだったの」

 ドギマギしているわたしに妻がいう。

 若い彼女に呼びかけられたような、驚き顔のわたしに、妻がケゲンナ顔でいう。

 なに考えていたのかしら。

 顔を傾げる彼女のしぐさはあの頃とすこしも変わっていない。

「なにを考えていたの」


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短編小説の部屋。 麻屋与志夫 @onime_001

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