ドキッ!クローンだらけの学級!
ちびまるフォイ
一番いいクローンをたのむ
新任教員の俺がはじめてのクラス担任。
「ここが君のクラスだ。頑張りたまえ」
「はい! 頑張ります!」
教室に入ると、多種多様な生徒が――いなかった。
みんな同じ服装、同じ髪型、同じ服装をしている。
「んなっ……なんですかこれ!?」
「君が教える3-Bはクローン学級だ。
これは人間の個性の実験の一環なんだよ」
「個性の実験……?」
「同じ体、同じ記憶という同じ環境において、
指導者が与える影響によりどれだけ個性が差文化されるかテストしているんだ」
「それじゃ俺はどうすればいいんですか」
「没個性のこのクラスにできるだけの個性を作ってみてくれたまえ。
それが君がこの教室で行うことだよ」
話が終わり生徒を振り返ってみても、見分けがつかない。
まるでハンコで同じ顔を量産したように見えてゲシュタルト崩壊し始める。
「個性を作るったって……」
まずは名札を作ることにした。
まったく見分けが付かないというのもあるが、
名前によりどれだけ個性が生まれるかを期待していたのもある。
数日後、名前を付けたことで教室にはやや個性が生まれた。
「お前の名前だっせーな!」
「その名前いいなぁ、そっちがよかった」
名前より差が生まれ、名前に合わせてやや性格も引っ張られる。
こぎれいな名前をつければやや品行方正に。
ネタっぽい名前をつければ人気者かさらし者のどちらかになる。
「すごいな。名前だけでクローンでもこんなに差が生まれるのか」
個性の種を植えたのは自分だが、そこからどんな個性が芽吹くかはわからない。
それでも生徒たちに個性を与えていくのは楽しかった。
「よーーし、どんどん個性を際立たせていくぞ!」
これまでは全員に同じ授業を行っていたが、それも別にすることにした。
あるクローンにはつきっきりで熱心な勉強を教えて、
あるクローンには教科書をほっぽって外で遊んだり、
またあるクローンには心理学などの教科書外でのことを教えたりした。
それからしばらくすると、生徒たちの個性はより細分化された。
「ったく、いつもいつも騒がしいな……。静かにできないのか。
これだから向上心のないバカクローンどもは……」
熱心に勉強を教えたクローンは勉強での成績が上がるにつれ、
成績の差を人間価値の差として見下し始める傾向になった。
「それじゃ、明日ここで勉強会をしよっか。
みんなでお菓子を持ってきたら、きっと楽しいよ」
同じように勉強をさせたクローンでも、没個性的な名前にしていた人は
自分との差で見下すのではなく、差を埋めるような行動が見られた。
どんどん生徒の個性を広げていくのが楽しくてたまらない。
「さぁ、次はどんなことをして変化させようかな」
次のカリキュラムを考えていると、呼び出しが入った。
『3-Bの先生は校長室まで来てください。大事な話があります』
なにかしでかしてしまったのだろうか。
辞表を胸ポケットに入れて、ドキドキしながら校長室へと向かった。
部屋はやたら防音に凝った部屋の作りで、床はピカピカに磨かれている。
「まあ、入りたまえ。そうかしこまらなくてもいい」
「あのぅ、俺がなにかまずいことしましたか?」
「いや、君の問題ではない。そろそろ時期が迫ったからそれを伝えようと思ってね」
「時期?」
「君の教室にいるクローン生徒のうち、
最も優秀なクローン生徒を1人選んでほしい。それで君の教育は終わりだ」
「1人って……。彼らの中には勉強ができなくても別の才能に秀でた生徒もいます。
一番優秀といっても、それは何の分野かで変わります」
「それを決めるのは君だよ。評価基準は君に任せる。
我々は君が選んだ生徒を採用するんだ」
「選ばれなかった生徒はどうなるんですか?」
「全員殺す」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!? そんなの聞いてません!
せっかく手塩にかけて個性を作ったクローンたちを殺すんですか!?
なおさら選べません!」
「君が1人を選ばなければ、3-B生徒は全員処分されるだけだ。
それでは、期日になったら結果を聞かせてくれ」
事務的に伝えて校長は去っていった。
すでに何度も説明したかのような落ち着きっぷりで、
改めて生徒の処分も含められている実験なんだと思った。
「優秀たって……どう選べばいいんだよ……」
出席簿を開いて、同じ顔たちを眺める。
最初こそ見分けはつかなくなっていたが
個性が生まれた今は目つきをはじめ顔つきまで変化していた。
彼らの中から、何をもって一番優秀だといえるのか。
勉強か、性格か、頭の回転か、創作か、将来性か。
悩んだ末に俺は必死に勉強をはじめた。
・
・
・
選定結果の日、俺はふたたび校長室に呼び出された。
「3-B担任。どの生徒を選ぶか決めたかね?」
「はい。この子です」
「そうか。どうしてその子にしたんだ?」
「一番優秀だからです。勉強もスポーツも性格も、完璧だからです」
「そうか、わかった。ではその子以外は処分しよう」
校長は部下に指示を出して、3-Bの教室に処分スタッフを派遣した。
「校長先生、処分する必要ないですよ。無駄足です」
「どういうことかね?」
答える前に校長のもとに処分スタッフから連絡がきた。
『こ、校長先生!! 生徒たちが……みな死んでいます!!』
「なんだって!? 君、いったい何をしたんだ!」
「勉強と実験をしたんですよ。すごく苦労しました。
複数のクローンの能力を1つのクローンに落とし込むのは……。
でも、成功しました。生徒全員の能力を引き継ぐ完璧に優秀なクローン生徒ができましたよ」
「……そうか、わかった。おい、生徒を保護しろ」
校長は唯一生き残った「優秀な生徒」を保護した。
「クローン選定実験はこれで終わりですね」
「ああ、そうだな。そして君は失格だ」
校長はためらいなく発砲した。音は壁に吸い込まれて聞こえなかった。
「君は1人のクローンを選ぶのに、殺し合体させるマッドサイエンティストな方法を取ったようだね。
しかし、3-Aのクローン先生は別の方法を取ったよ。
生徒に協力させて、1人の生徒へ生徒同士教え合わせて、完璧に作り上げた。
命を奪うような方法でしか解決できないようじゃ、君は劣っている」
それだけ聞いて、俺の意識はぶっつりと途絶えた。
『3-Cの先生、校長室まで来てください』
そしてまた、同じ顔の先生が呼ばれた。
ドキッ!クローンだらけの学級! ちびまるフォイ @firestorage
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます