第5話

「いやあ、死にましたねえ、犯人。酷い有様だったそうじゃないですか」


やたらとカロリーが高いメニューで知られるチェーン店のカフェで、そいつは甘ったるいケーキを頬張りながら笑った。


「いや、ちゃんと呪詛返しが出来ないとね。報酬がもらえないんで。確認はしっかりしてますよ。はい」


そいつは、そういう事を専門とする探偵というやつで。

相応の金さえ払えば調べる事に嘘はない。

そいつが差し出した週刊誌には地方の金持ちの連続変死事件がおどろおどろしく掲載されていた。


「村の名士ってのも大した奴だったわけね。呪いの定義を変える事で恨みの矛先をずらしたって事?」


私は甘いものはあまり好きではないし、かといって苦いのも嫌いなので、無糖の紅茶を啜った。

報酬の入った封筒を机の上に置くと、そいつはニコニコと笑いながら金を数え始めた。


「恨みというのはね、逆恨みとかいうでしょ?見当違いな所にまで飛んでいく性質が言葉に含まれるわけで。そういうのを利用したわけですな。沈めきれない”怒り”の呪詛を”恨み”という低い次元に落とす事で対象を広げたわけですな」


「村を巻き添えにして、自分たちだけ逃げたってこと?」


「まあ、村の連中も協力者ですからねえ、本来の呪詛の対象ではあったわけですな。それを目くらましにしてしまえば。本来の殺すべき相手が見えなくなってしまう。恨みが晴れたかどうかわからないが消える事も出来ない。禍だけが残るんですからね。こりゃあタチが悪い。自分たちだけ逃げきればいいと言う点では巧妙な術ですとも」


それでは、と。

金を鞄に仕舞ってそいつは席を立つ。


「くそ、本当に迷惑だわ。なんで私はそいつらを殴れないのかと思うと余計に腹が立つ」

「まあ、それは。優先順位ってやつじゃないですかねえ」


笑いながら立ち去るそいつを見ていると。

更に怒りがわきあがってきたけれど。


どうしようもないので焼き肉でも食べて帰ることにしようと思った。


-了-

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

@popo9603

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る