第22話

駆けつけた警官によって男は逮捕された。




「こいつ、阿久津じゃないか?」




 警官は驚いていた。


 強盗殺人犯として全国に指名手配されている、阿久津喜彦だったらしい。


 でも、それでめでたしめでたしとはならなかった。


 俺も警官に事情聴取をされたのだ。


 どうしてあの場にいたのか? と。


 さすがにループに巻き込まれたなんて言えず、たまたま物音を聞いたと答えた。


 そうしたら、何故ビール瓶を持っていたのかと突っ込まれた。


 野良犬だと思い、瓶で地面を叩いて追い払おうと考えたと答えた。


 予め質問を予想してなかったら、きちんと答えられたか怪しかっただろう。


 そうなると変な疑いを持たれていたかもしれない。


 解放した後も刑事は何とも形容しがたい顔だったしな。


 その刑事には阿久津は侵入用の道具の他に、ナイフや放火に使うと思われる道具を所持していたと説明された。


 最悪の場合、一家全員殺されて放火されていただろうとの事だった。


 俺が死に戻りしなかったらそうなっていたのは間違いない。


 皆を守れた事にホッとしながら帰路につくと、門の前で皆が待っていてくれた。




「みっくん」




 服に着替えた実夏が抱き着いてくる。




「大丈夫?」




 心配そうな従妹に微笑みを返した。




「大丈夫だって。ちょっと事情を聴かれただけだし」




 正直かなり緊張はしたけど、不愉快な気持ちはしなかった。


 相手が指名手配犯で俺は未成年っていうのがあったのかもしれないけど。


 実夏はそれだけだったけど、父さん達と叔父さん達には怒られた。


 今回みたいなケースの場合、まず自分達を起こせって。


 全くもってその通りだったので、神妙に謝っておいた。


 身内に犯人がいるかもしれないと疑っていたなんて、とても言えたもんじゃない。




「朝ごはんだけ食べて寝なさい」




 母さんに言われて素直にうなずく。


 母さんと叔母さんの目じりに涙が浮かんでいたのは見ないふりした。


 朝ごはんはバターを塗った食パンにトマトとレタスのサラダ、コーンスープ、バナナ、ヨーグルトだった。


 正直あまり食欲はないけど、無理にでも食べておく。


 これがゲームだったなら、クリアしたと断言できるんだけど、生憎と現実だ。


 まだ何があるか分からないし、腹ごしらえはしておいた方がいいだろう。


 そう思って口の中にどんどん放り込む。


 実夏がコップに牛乳を入れて目の前に置いてくれたので、ぐいっと飲む。




「そんなに慌てなくても」




 実夏は不思議そうな顔をしている。


 言いたい事は分かるけど、何だかとても腹が減っているのだ。


 ほぼ徹夜だった事、襲撃者が捕まって安心した事が原因じゃないだろうか。


 本当、皆が無事で犯人でもなくてよかったよ。


 何がどう変わったのか、正直なところさっぱり分からないけど。




「ご馳走様」




 朝食を食べ終えると、食器を流し台に持っていき、部屋へと向かった。








「みっくん、またねー」




 寂しそうに手を振る実夏に、同じく手を振って別れを告げる。


 結局、何事もなく帰る時間が来たのだった。


 どうやらループからの脱出に成功したらしい。


 阿久津という男が捕まった時点でクリアしていたんだろうか。


 分からない事はたくさんあるけど、検証する気にはならなかった。


 どうやって検証したらいいのかも分からないし。


 ただ、家に帰って休みたかった。


 ……父さんが何で俺を殴ったのか分からないままだったが、いまは何も考えたくなかった。

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りとらい 相野仁 @AINO-JIN

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