わさびガン これぞ漢の嗜み哉
@tanukids
わさびガン これぞ漢の嗜み哉
お前まだBB弾なんてやってんのかよ。哀れというか、情けないというか。おいおいムラマサ君って。ムラマサでいいよムラマサで。漢同士呼び捨てでいいじゃんか。よし、ちょっと来いよ。本物の銃、欲しくねえか? 欲しけりゃついて来な。だがこれは内緒だぜ。大人が知ったら社会が混乱しちまうらしいからな。
ここならもう大丈夫だろう。ほら、これやるからお前もやってみな。ん? みりゃわかんだろ。わさびチューブだよわさびチューブ。まずは自分の道具をよく知ることだ。確認してみな。もう一かけも出ないだろう。よし、大丈夫なら次のステップだ。出口のところから息を入れてチューブをめいいっぱい膨らますんだ。なに? 辛いから嫌だ? ばっきゃろー!! そんなおこちゃまに銃が持てると思ってんのか。俺もな、さいしょは嫌だったさ。でも我慢して我慢して、今ではあの鼻毛がぞわぞわする感じがたまらなくなっちまったくらいだぜ。お前も早く此方へ来い。いいぞ、その調子だ。涙は俺が拭ってやる。鼻水は……それはさすがに自分でなんとかしてくれ。
そろそろいいだろう。では蓋をしよう。ああ、のろいのろい。やり直しだ。いいか、一生懸命吹き込んだお前の魂だ。一つだって逃がしちゃいけねえぜ。
右手に蓋を持つ。口は再びチューブ。はいっ吐いて―。止めて! 右手をそのままほっぺの近くまで持ってこい。そして……そうだ。わかってきたじゃあないか。
だが我々はイタダキのフモトに立ったに過ぎない。これからが長い道のりだぞ。チューブの尻尾を持って、縦に振る。うーん悪くないが、そうだ私のを見ていなさい。いつもこうやってポケットに銃をしのばせているのだよ。手首のスナップを効かせてだな。そうそう。では作業を続けながら聞いてくれ。我々は一秒たりとも時間を無駄にすることはできないからな。
このわさびがなぜ銃となるのか。その原理を教えておいてやろう。お前はお母さんがケチャップやマヨネーズ、歯磨き粉のチューブで同じことをしているのを見たことはないか。実はあれは空気の力によって残った中身を押し出しているのだよ。そして振れば振るほど、もちろん押し出す力は増加するのだ。では、極限まで振り続ければどうなるか。そう、わさびは音速を超える! BB弾なんてもうおもちゃだよおもちゃ……おい、手が止まってるぞ。
でも最初に言っただろう。これは秘密の術なんだ。このわさびガンを悪用した大人が、殺人事件を起こしたことがあるらしい。キッチンでのちわゲンカ? がもつれた末の悲しい出来事だったとか。コッカケンリョクは驚いたさ。この事件を明るみに出せば誰でも銃が持てることが明らかになる。じゅーとーほーもなにもない、日本もアメリカ社会の仲間入りさ。こうしてこの事件と、わさびガンの製法は闇に葬りさられたのさ。
俺たちはちがうだろう? 武器が悪いんじゃない。それを使う者の心次第なんだ。一つだけ聞いておこう。日曜の朝7時30分だ。お前は何をしている? うん、ならお前は正義が何たるかを知っている。その気持ちを忘れるんじゃないぞ。
何か質問はないか。うん。うん。なるほど。いい質問だ。いつまで振り続ければいいんですか、なんて甘ったれたことを言い出したら引っぱたくところだったぞ。
確かにマヨネーズでもガンはできる。ケチャップでもガンはできる。これは、ただの俺のビガクだから強要するつもりはねえよ。でもな、死ぬときくらいツンとした大人の痛みを知って逝きたいじゃねえか。それにな、正義のためとはいえ、自分の手を汚すんだ。ケチャップやマヨネーズなんて持つ権利ねえよ。
分かったくれたか。ありがとう。お前も漢だな。では最後に三つ、有益な情報を伝えておこう。一つ目、来るべき時のためガンはいくつか持っておいたほうがいい。一つ作るのにとても時間がかかるからな。俺は同時並行して13個作成している。そして二つ目、これは信頼できる筋からの情報なのだが、ガンを作るには向き不向きがあるらしい。そしてお前の持っているそれ、それがわさびガン界のワルサーP38ともいわれている代物だ。ムラマサ食品の「わさびチューブお徳用」、忘れるな。そして三つ目、繰り返しになるが決してこのことは他の人に漏らしてはいけない。特に大人はダメだ。あの悲惨な事件を繰り返してはならない。材料調達に困るかもしれないが、そこは上手くやるんだぞ。
ではさらばだ。あでぃおす、同士よ!
わさびガン これぞ漢の嗜み哉 @tanukids
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます