14 最終話
明け方、雲海がでた。
朝日が反射して、一面がオレンジ色に染まっている。
その様子を二人で眺めたあと、言葉少なに、車に向かって歩き出した。もしかしたら、二人とも酔いが回って、あんなことをしていたのかもしれない。お互い疲れが見えている。あんな夜は二度と来ないだろう。
それでも、やっぱり、佐久間と一緒にいるだけでどうしようもなく楽しい。悲しい気持ちがなくならないように、幸せな気持ちもなくならないものだ。
駐車場へ戻ると、美沙と賢治は後部座席で眠っているのが見えた。鰤谷は駐車場の真ん中で山を見つめていた。何をしていても画になる人だ。
「ずいぶん遅かったね」鰤谷は落ち着いた声で言った。
香織と佐久間は顔を見合わせた。急に恥ずかしさがこみ上げてきた。
「私と美沙、寝ちゃって、途中で起きたら、賢治君が車の外で震えてるの見つけて、急いで中に入れたけど、風邪ひきそうだったよ。二人は大丈夫だった?」
「ええ、まあ。師匠、見てました?」
「二人ではしゃぎはじめたところを少し。しばらく見ていたけど、全然戻ってこないから、車に戻ってた。全く、弟子が師匠を待たせるんじゃないよ」
「すみません!師匠、弟子失格でしょうか?」
「いや、久しぶりに大学生っぽい楽しい思いさせてもらったよ。それに免じて合格だよ」
「佐久間君」
佐久間が緊張した様子で鰤谷の前に立った。
「なんでしょうか」
「もう、私の前で泣いたりしないでね」鰤谷は真剣な表情で言った。
「すみません!」
鰤谷は佐久間を見つめる。
佐久間も鰤谷を見つめている。
「『すみません、師匠!』でしょ。そろそろ帰るよ」
「すみません!師匠!」佐久間は大きな声で頭を下げた。
鰤谷は満足げに頷くと、ベンツに向かって歩き出した。
その後ろを二人で笑いながらついていった。
*
スカイラインを下っている。帰り道は緩やかに下るコースで、両側には緑が広がっている。来るときには気付かなかった。この景色を見るためにまたみんなで来たい。そう思って後ろ振り返ると、三人は熟睡していた。
「師匠、聞いてもいいですか」香織は小声で鰤谷に聞いた。
「なに?」
「なんで一人になったんですか?もしかして、一人で……」
「その先を質問したら、弟子失格だよ」
「すみません! 師匠!」
みんながびっくりして飛び起きた。
鰤谷はこちらを見ずにただ笑っている。
朝日がその横顔を照らす。
相変わらず美しい。
彼女が何を思ったのか、またいつか話してくれるのかもしれない。
それを楽しみにしていよう。
ふと、サイドミラーを見つめる。
もう、夜空は遠くへ行ってしまった。
けれど、寂しくはない。見えなくても星は降り続けていると知っている。
同じ星を見上げる名前も知らない誰かにも素敵な夜が訪れますようにと、香織は見えない星に願った。
星が降る夜 Stars in the rain 杜崎 結 @knot_write
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