まず、この作品を読む前に同じ作者さんのエッセイ(「窓は静かに」)を読んでいたので、そこで語られた「長編にすべき」作品という言葉に単純に引っ張られて、そうだなあ、と思いながら読んでしまっています。
ある意味で歴史年表的な公的な時間軸に、「色」と関わり生き続けてきた主人公の個人史がほどよい距離感で絡み合っていく。その面白さをダイジェストで追っているような感覚に陥って、個々のエピソードをもっと詳しく知りたい、という欲求が生まれるように思いました。まあ、エッセイからのあと付けですけどね。
そのダイジェストで十分面白く感じるのは、戦前という我々からするとモノトーンの時代を起点に、「色というキャラクター」の強い疾走感があるからだと思います。この物語において「色」は使役する対象じゃなく、パートナーです。それは画家の父親から一貫しているように見えます。
過去を思うとき、特に大戦前後を思うときは、意識せずともモノトーンの世界を思い描いてしまっています。そこへ鮮やかな色彩を強烈に導入するところに、過去への関心をうまく惹起する、たくみな仕掛けを感じます。最後のシーンがそれまでの人生を振り返る、というのは、だからとても自然に感じます。これは過去を振り返る物語だと思います。それもしっかりとした、たしかな色を伴って……。
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本筋とはあまり関係ないですが、このように現実の過去とのつながりを強く意識してしまったので、時間軸のズレが気になってしまいました。関東大震災の四年後に真珠湾攻撃? 僕がなにか読み違えているのかもしれませんが……。