色彩のトランク

作者 羽間慧

84

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★★★ Excellent!!!

まず、この作品を読む前に同じ作者さんのエッセイ(「窓は静かに」)を読んでいたので、そこで語られた「長編にすべき」作品という言葉に単純に引っ張られて、そうだなあ、と思いながら読んでしまっています。
ある意味で歴史年表的な公的な時間軸に、「色」と関わり生き続けてきた主人公の個人史がほどよい距離感で絡み合っていく。その面白さをダイジェストで追っているような感覚に陥って、個々のエピソードをもっと詳しく知りたい、という欲求が生まれるように思いました。まあ、エッセイからのあと付けですけどね。
そのダイジェストで十分面白く感じるのは、戦前という我々からするとモノトーンの時代を起点に、「色というキャラクター」の強い疾走感があるからだと思います。この物語において「色」は使役する対象じゃなく、パートナーです。それは画家の父親から一貫しているように見えます。
過去を思うとき、特に大戦前後を思うときは、意識せずともモノトーンの世界を思い描いてしまっています。そこへ鮮やかな色彩を強烈に導入するところに、過去への関心をうまく惹起する、たくみな仕掛けを感じます。最後のシーンがそれまでの人生を振り返る、というのは、だからとても自然に感じます。これは過去を振り返る物語だと思います。それもしっかりとした、たしかな色を伴って……。

***

本筋とはあまり関係ないですが、このように現実の過去とのつながりを強く意識してしまったので、時間軸のズレが気になってしまいました。関東大震災の四年後に真珠湾攻撃? 僕がなにか読み違えているのかもしれませんが……。

★★★ Excellent!!!

 戦争の時代、暗闇の中を人々が歩んでいただけに、「色」は人々の心を明るく照らす存在だったのかもしれません。だからこそ、主人公はトランクを抱えて絵の具を作って来た商人の意志を受け取り、「色」を守って来たのだと思います。

 時代が移り変わると共に、「色」が再び鮮やかに解き放たれていきましたが、寧ろ色がなかったような戦時中の方がそれを大切にしてきたような感覚があります。「色」を通して、その時生きてきた人々の生き様や、日々当たり前にあるものの有難さを改めて感じさせてくれる作品です。 

★★★ Excellent!!!

ある男性の歩んだ一生。
戦争をくぐり抜け、家族を得、老いが訪れ、やがて人生の終点が近づく。
そんな彼の人生に貫かれていたもの——それは、「色」。

多くの苦労をし、様々な経験をしながらも……ここには、一人の人間の「幸せ」が描かれている。
なぜかそんな満足感がしっかりと残る、味わい深い短編です。

★★★ Excellent!!!

 いい作品、うまい作品、バランスのいい作品。
 名作にも様々な作品がありますが、こちらの作品は、心の温まる優しい作品です。
 
 色を作り出すという独特の設定だけでも美しいのに、そこに注がれる景色が繊細なのです。
 はっとするような、胸が痛くなるような美しさなのです。

 ぜひ、ご一読を。おすすめです。

★★★ Excellent!!!

ある日突然やってくる「お客」と不思議なトランクをめぐるお話。
大量生産にはない、独特な味。
原色と、原色から分岐するオリジナリティ溢れる、たくさんの色の対比。
流れるような美しい文体。読みやすい文章。
うまく言葉(感想)にできないですが、この作品のような、美しい文章を紡げる人間になりたい、そう思います。

★★★ Excellent!!!

この物語は、太平洋戦争を軸として、一人の偏屈な画家とその息子、画家に絵の具を売りに来た商人が家に来たところから話は始まる。

先ず、言葉選び一つ一つが素晴らしく、感情を揺さぶられそうになりました。

皆さんが好きな異世界ファンタジーではありませんが、他のジャンルでもこんなに素晴らしい物語があるのです。

一度読んでみる事をお勧めいたします。