電池
PURIN
電池
どうしたんだろう? おかあさんが起きない。
もうおひるなのに、ずーっとねんねしたまま。
なんどよんでもゆすっても、ぜんぜん目をあけてくれないの。
きのうまではなんともなかったのに。
いつもとおなじように、「おやすみ」っていってたのに。
こんなにあついのにからだもつめたいし、どうしたんだろう。
おなかがすいてるのかな? おかあさんの好きなおかしをかおの前に見せてみたけど起きない。
テレビをつけてみたらどうかな? おかあさんの好きな動物のばんぐみにしてみたけど起きない。
なにか怒ってるのかな? わるいことしてないかどうかがんばっておもいだそうとしたけど、おもいあたることはぜんぜんない。
おかあさんはただただ、目をとじて、あおむけのまますこしも動かずにじっとしてるだけ。
ほんとうにどうしたんだろう?
つくえのうえの、このまえおかあさんにかってもらったおもちゃが目に入った。
「動かなくなったら、あたらしい電池を入ればまた動くようになるよ」
おかあさんは、そういってた。
そうだ、電池だ!
いまのおかあさんはおもちゃみたいに、電池がきれちゃってるんだ。だから電池を入れればまた動いてくれるんだね。
さっそく、両手のひとさしゆびでおかあさんのくちびるをうえとしたに大きく広げてから、電池をひとつ入れた。
ごはんとおなじで、口から入れればいいんだよねきっと。
…おかしいな、起きてこない。ちゃんと電池入れたのに。
そっか、きっと足りないんだね。
もうひとつ電池を入れた。
…まだ起きない。まだ足りないんだ。もうひとつ入れる。
…だめだ。もうひとつ。
…はんのうがない。もうひとつ。
もうひとつ。もうひとつ。もうひとつ…
とうとうおかあさんの口は、電池でいっぱいになった。
すきまなくぎっしりと電池電池電池。電池でうめつくされている。
かおのしたはんぶんは、もとの大きさの2倍くらいにふくれあがっている。おともだちのいえで見たハムスターみたいだ。
でも、おかあさんは、まだ動かない。
もっといっぱいひつようなんだ、電池が… でも、もう口には入らない…
そうだ、まだ入りそうなばしょはある!
キッチンからほうちょうを持ってきた。
おかあさんがいたくありませんように…
そうおねがいしながら、おかあさんの首のつけねくらいのところにそっとほうちょうをさしこんだ。
だーっとあふれてくるち。びっくりするほどとまらない。ころんでひざをすりむいたときとはぜんぜんちがう量。
あっというまにおかあさんのパジャマもからだもおふとんもたたみもまっかっかにそまった。
怒られちゃうな。おかあさんが起きてきたら、お部屋をよごしたって。
でもごめんね。こうするしかないんだ。
ゆっくり、ゆっくりほうちょうをしたにおろしていく。
おろしていけばいくほど、ちがたくさんでてきた。
とてもたいへんだったけど、どうにかおかあさんのおなかをパジャマごとおへそまできりひらいた。
わたしも電池も、見えるものすべてがまっかっかになってた。
ぬるぬるして、あつくるしくて、ひどいにおいがした。はきそうだった。
けど、やるしかない。
きりひらいたおかあさんのおなかの中に、電池をひとつ。
しんぞうっていう大切なものは、たしかおなかにあるんだよね。
それなら、おなかに入れればさすがにだいじょうぶだよね。
…まだ足りないか。
もうひとつ。だめだ。
もうひとつ。もっともっと。
もうひとつ。どうして…
どんどんどんどん、電池を入れていく。
赤ちゃんだったころにわたしが入ってたところ。
そこにいま、おかあさんを助けるための電池をつめこんでいるんだ…
どんどんどんどんどんどんどんどん。
お母さんは、起きない。
まだまだ、起きない。
電池 PURIN @PURIN1125
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