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sin30°

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『時刻は17時! 今日もこのコーナーに移りましょう! それでは――』

『さて、今夜は人型アンドロイドの定期メンテナンスです。時間までに首元のスリープボタンを押さなければなりません。皆さん、お忘れなきよう。また、弊社ではアンドロイドを――』

『やだもう! これ放送するの~!? ありえな――』

『――という存在が生まれたこと、これこそが少子化に対する大きなカウンターになったわけであります』


「なあ、散歩にでも行かないか?」

 何が見たいわけでもなくチャンネルをコロコロと変えた彼はテレビを消し、隣にいる『恋人』に話しかけた。

 テレビから視線を外した彼女は、ゆっくりと声のしたほうに顔を向け、表情を変えないまま口を開く。

「ええ。あなたがいきたいところなら、どこへでも」

 いつも通りの返事。言葉から温度は感じられない。だが、それが彼女の常だった。


 玄関を出るときにしっかりと手をつなぎ、部屋のドアを開けて外へ出る。

 アパートの廊下に出ると、ちょうどお隣さんと出くわした。大学生ぐらいの可愛らしい女の子で、大学から帰ってきたところなのかしっかりとした赤いリュックを背負っている。

 二人そろって軽く会釈をすると、

「こ、こんにちは……」

 とひきつった笑顔で応えて、逃げるように自分の部屋へと入ってしまった。


彼と彼女はアパートを出て、夕日が赤く染めた路地を歩き始めた。

 住宅街の細い路地を行き交う人々は二種類に分けられる。人間と、アンドロイドだ。アンドロイドは人間を精巧に模した見た目をしており、見ただけで人間と区別できないので、頬にシリアルナンバーが入っている。

 二、三十年前から世に出たアンドロイドはもはや人間にとって当たり前の存在となっており、道具としての役割に留まらず人間の社会に組み込まれている。街にいるのも人間とアンドロイドが半々ぐらいだ。

 その街行く人々の中で、ほとんどすべての「人」が彼らを怪訝そうな顔で眺めている。彼らは、二人きりで外を歩くといつもそういう視線を向けられるのだ。

 明らかに嫌悪を含んだ視線を送る者もいれば、意味が分からないというような戸惑いの眼を向ける者もいる。

 明らかに良い意味ではない視線を向けられ続け、彼はつい顔をしかめてしまう。それに対して、彼女はそんな視線など意に介さずというように眉一つ動かさない。

「大丈夫か?」

彼女の顔を覗き込むようにして彼が話しかける。

「はい」

彼女はまだ表情を変えず、淡々と返事をするだけだった。


 手をつないだまま歩いていると、正面から小学校低学年ぐらいの男の子と、そのお母さんらしき二人組が歩いてきた。

 男の子は彼らを発見するや否や、眉をひそめて首をひねった。彼がその姿に嫌な予感を感じていると、男の子は彼らの方を指さし、顔をお母さんの方に向けて大きな声でこう尋ねた。


「お母さーん、なんであの人たちは人間どうしなのに手をつないで歩いてるの? 人と人なのにカップルなのかな?」

 頬に数字を刻まれたお母さんは男の子を抱えて、そのまま速足で逃げるように去っていった。



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ai sin30° @rai-ra

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