絶海の孤島を訪れた主人公とその友人が遭遇する怪異を描いた伝奇ホラー。
痛ましい描写はあるものの、あくまで静謐な恐怖のなかで物語は叙述されていく。
外部との通信もままならない状況で、乏しい物資をやりくりして生還をめざすサバイバル作品としても十分に楽しめるだろう。
物語が進むにつれて過去と現在が交差し、島をめぐる隠された歴史を紐解いていく歴史ミステリー要素も見逃せない。
時間と空間、そして彼我の境界線すら溶け崩れていくようなクライマックスは圧巻の一言。その果てに辿り着く結末は、仏教や民俗学にさほど興味がないという方でもかならず引き込まれるはずだ。
卓越した描写力とたしかな知識で描かれる異界への補陀落渡海、ぜひご堪能あれ。
どこか懐かしさを覚える、始まりの時代。
そこここに描写される、会話や小物の時代感が楽しい。
二人の若き研究者の卵の様子は微笑ましいが、彼らが表題にある、孤島の影と出会ってから、物語世界の色が一変する。
ひたひたと迫る恐怖。
明らかになるほどに、背筋を震わせる事実。
まるで闇のなかに転がり落ちていくかのような、物語の展開は、思いもよらぬスペクタクルへと変わる。
読みやすくも、実の篭った筆致。
あたかも実在したのではないかと思わせるような、『彼ら 』のことば。
ひとたび紐解けば、電子の頁を繰る手が止まらなくなる、伝奇ホラーの快作だ。
いやあ、面白かった!