終章

 眩い光の弾を見たのは、調査隊が引き上げの準備をしていた時であった。

 大陸の中心――神のたまごの内側から、閃光がたまごを貫き、天上に昇り、花火のように弾け飛んだのだ。

 弾け飛んだ光は、黄金色の光の雨となってたまごとその周辺に舞い降りてきた。

 調査隊が慌てて神のたまごの元へ向かうと、たまごはまるで火に晒されたチョコレートのように溶け落ちて、中の古代の街が見えていたという。

 更に驚くべきことに、前日までただの枯れ果てた不毛の地であった地面に、緑の草木が芽吹いていたと記録されている。

 その芽は、一夜にして大きな森に成長したとの記述があるが、真偽のほどは定かではない。

 古代の街の周囲には、半透明の水晶のような美しい樹々が並んでいたが、それらは緩やかな風を受けて、次々と砕け散ったそうだ。この時、砕けた破片の一部を調査隊が持ち帰ったものが、現在も国立博物館に展示されている。


 調査隊が街の中へ入ってみると、そこには我々と同じ人間がいた。

 肌は我々に比べ明らかに青白く、体系も細く軟弱な人々が多かったと後に隊員の一人が証言しているが、見た目に多少の違いはあれど、我々と同じ人種の末裔であることが、現在では証明されている。


 幸いにも、彼らの話す言語は我が国で使われている言葉に近いものであり、何とか意思の疎通が可能だった。

 彼らが言うには、およそ千年以上もあのたまごの中に守られて、今まで、たまごの外に世界があることすら知らずに暮らしてきたという。


 ――中略――


 こうして我が国と彼らの交流が始まり、今日に至る。

 千年続いた平穏な夜から、朝へ歩き出す決断をし、国の再建、他国との交流などに尽力した若者たちの中には、後に総督となったユキ・キラナ氏や、彼の右腕と言われたアヤ・アルハ議長らがいたと記録されている。

 また、一度は枯れた大地を耕し、広大な農地を開拓して現在の農業の基盤を作ったことで知られる、ハリ開拓王も、彼らと共に奔走した一人であった。

 彼らは当時まだ年若い学生であったが、彼らの決断と行動力が無ければ、たまごの内部は遠からず崩壊し、街は惨たらしい悲劇に見舞われていただろうと言われている。



 追記:同一人物であるとの確たる証拠は残されていないが、世界を渡り歩き、数々の名作を遺した詩人、ジウ・アータと同名の人物が記録に登場している。




――――「神のたまごの謎」より抜粋――――

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極夜の鳥籠 祥之るう子 @sho-no-roo

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