第12話 大会にて大改装

 そんなこんなで、闘技大会の当日。

 メイドたちに起こされたルミナスは、いつになく上機嫌だった。


 いつもどおり回れ右させられた背後では、入って来たメイドらに着替えさせながら、何やら楽しげな鼻歌まで聞こえる。


「魔王さま、今日はまたご機嫌がよろしいようで」

 この声はマルフィナだな。この間、コクってきたサキュバスの娘。


「待ちに待った闘技大会の日ですものね」

 こっちはフィオリア。緑色の髪をしたアルラウネと言う、花の妖精のような種族だ。一人だけメイド服のスカートの丈が長いと思ったら、腰のあたりから下が真っ赤なバラの花びらで覆われてる。

 なぜ知ってるかと言うと、もちろん毎夜の魔力吸引ハーレムのメンバーだからだ。


 ちなみに、その花びらを掻き分けると、人と同じ下半身があるので問題ない。


「よし、それでは参るかの。ゴウラ!」

 呼ばれたから、彼女らの方に向き直る。

 ルミナスの衣装は、いつにもまして装飾が増えたド〇ンジョさまだった。


「あら」

「まあまあ」


 メイドたちが俺の下腹部を注視する。しかし、注目されてるのは俺の本体イチモツではなく、その上を覆う「前垂れ」のはずだ。普通は鎧の一部として腰から下、股間あたりまでを覆うパーツだ。

 肘から先を武器に変化させられるようになったので、試してみたらうまくいった。

 見た目はなめし革のような質感で、鳩尾みぞおちから股下あたりまで、を覆っている。本体が納まらないので苦肉の策だ。


「あら、硬いんですね」

 手を振れたマルフィナが声を上げた。

「俺の身体の動きに合わせて変形するだけだからな」

 撫でさすっても、本体の感触は得られないはず。当然、本体も感触は無い。鳩尾から出した前垂れが感じ取るだけだ。


 前垂れが柔らかそうなのは見た目だけで、実際は戦闘などでの衝撃から本体を護るためのものだ。……ついでに、女性陣の視線からも。

 今日の闘技大会で誰と(何と?)戦わされるか分らないが、本体に衝撃を喰らって意識が飛ぶのは避けたい。


 さらに言うと、これ以上の魔族女性に性的な意味で関心を持たれると、色々な意味でヤバイからな。宮廷内で痴情のもつれに巻き込まれるのだけはゴメンだ。


「ほれ、朝食に参るぞ」

 欠食ロリ魔王ルミナスが、メイドたちを急き立てた。

 昨夜は多めに魔力供給してもらったから、その分は腹が減るだろう。仕方ない。


 メイドたちはこのままベッドメイキングや掃除で残るので、食堂まではルミナスと二人で歩く。


「ルミナス。今日の俺の対戦相手は、まだ秘密か?」

「そうとも。我が国の最高機密じゃ」

 日常会話なのに、いちいちドヤ顔するのはクドイと思うんだが。

「最高の相手を用意しとるから、期待しておれ」

 まぁ、構わないがな。毎日鍛えてくれたドノバンにも、何とか昨日はお墨付きもらえたし。


 もちろん彼には、「上には上がいるからな」と、釘を刺すことも忘れなかった。豪放な性格だが、闘いそのものに関しては謙虚だ。

 しかし、ドノバンたち以上の奴らが、この魔王国にはいるんだろうか。それを目の当たりにするだけでも、今日の闘技大会は価値があるな。


* * *


 闘技大会の競技場は、王都から少し離れた郊外にあった。デミュウ車で一時間足らず。穀倉地帯の中心に作られた、ほぼ円形の施設だ。

 闘技場の周辺は、十重とえ二十重はたえに屋台が取り巻き、さながら神社の縁日みたいな賑わいになっていた。


 様々な食材を煮て炒めて焼く香りが漂ってくる。食欲がないゴーレムの身体が、ちょっと恨めしくなる場面だ。祭りと言えば、屋台を巡って、ここでしか食えないジャンクフードをビールで流し込むのが、祭りの醍醐味なのに。


「ルミナス、涎垂れてるぞ」

 デミュウ車から降りたルミナスの口元を、指先で拭う。

「朝食ったばかりだろうに」

「何を申すか。こうした庶民的な味に触れておくのもじゃな――」

「はいはい、皆さん魔王をお待ちかねだから」

「あう~~」

 ほとんど脇に抱えるようにして、案内する侍従たちについて行く。


 通されたのは、闘技場の外郭、最上部に設けられた特等席だった。闘技が行なわれるスペースのみならず、多種多様な魔族に埋め尽くされた観客席まで含めて、一望にできる場所だ。

 言い換えると、闘技の場から一番離れていて、安全な場所でもある。左右に貴族向けの貴賓席が広がってるし。


 ……警備には適してるが、観戦には不向きだな。


 そう思ったが、魔王や貴族が臣民より低い位置の席に着くわけにはいかないのだろう。


 その特等席に着くと、ルミナスは何やら呪文を唱えた。

 闘技場の外周に沿って取り巻くように、いくつもの魔法陣が垂直に浮かび上がり、やがてその中心にルミナスの姿が大写しになった。


 魔法すげー。先日見せられた魔導鏡の簡易版だ。これなら、対戦者から離れていても、いくらでも大写しができるな。

 しかも、音響効果もすごい。


「余は魔王ルミナス」

 席から立ち上がるや否や、ルミナスの声が四方八方から競技場に鳴り響く。


「臣民たちよ。この闘技大会を開催するにあたり、一つ伝えておくべきことがある」

 そこで俺に向かって振り返り、手招きするってのはそう言うことか。

 一歩前に出て、ルミナスに並び立つ。

 ……前垂れを用意しておいて、本当に良かった。


「これなるはゴウラ・ムト。妾が百年かけて錬成した、絶対無敵のゴーレムに宿りし、異世界の魂じゃ!」

 いきなり、競技場が大歓声で埋め尽くされた。


 凄い紹介のされ方だ。何だか知らんが、いきなり魔族の英雄か何かに祭り上げられてしまった。


 ……単なる護衛役としてのお披露目ではなかったようだな。


下準備として、何やら前触れがあったような感触だ。唐突な宣言に見えたが、観客側には戸惑いが全く見られなかった。


 凄く嵌められた感がして、ちらとルミナスを睨んだ。

 ドヤ顔どころか、歯を見せてニカッと笑って親指まで立ててる。


 ……そのポーズ、でも同じ意味なのか?


 それはそうと、何らかのリアクションが求められてるみたいなので、とりあえず右の握りこぶしを空に向けて突きあげてみた。

 万雷の拍手だから、きっとこれで良かったんだろうけど。


 ……なんだろう、この。してやられた感は。


 こっちに向けるルミナスの笑みが。魔法陣の映像では死角になってるその笑みが。

 すっごく、黒くて悪い顔なだけど。


* * *


 闘技大会が始まった。


 さすがに「大」が付くだけあって、魔界の全域から猛者たちが集っている。種族的にもバリエーションが多く、先日の謁見でも見たことがない姿があった。


「闘技会そのものは、魔王直轄領の他に、貴族たちの領地でも結構な頻度で開かれておる。そうして各地で選ばれた強者つわものが集うのが、年に一度の闘技大会じゃ」

 席に着いたルミナスは、ワインの注がれたゴブレットを揺らしながら放した。


「その猛者どもにゴウラ、お前の桁違いの強さを見せつけることこそ、今回の最大の目的じゃからの」

 黒い。白磁のような肌なのに、ルミナスの笑みが黒い。


 闘技会そのものは普通なトーナメントだ。この世界の魔界側にある領地ごとの代表者が、勝ち抜き戦を繰り広げる。

 面白いのは、領地の規模に関わらず、代表者は一名のみとされている点だ。

 大きな領地が何人も出したら、有利になるのが決まっている。強さだけで言えば、領土の大小はあまり関係ない。

 そして、上位に食い込んだ代表者や領地は、魔王からの褒賞が出ることになっている。


 ……つまり、地方支援金の意味もあるんだな。


 魔界には貴族による大小あわせて約四十の領地がある。なので、第一回戦は二十組の対戦となる。

 時間がかかるかと思ったが、むしろ上位者の顔見せの場だったらしい。わざと力量差のある組み合わせになっていた。下位の者は、単なる引き立て役と言うわけだ。

 なので、思わずルミナスにツッコミ入れた。


「これでは、下位の代表者や領地が気の毒じゃないか?」

「なに。その分の褒賞も積んである」

 さいですか。


 さて。魔王直轄領の代表は、やはりというかドノバンだった。対するのはリザードマン。敏捷さを活かして多彩な攻撃を繰り出してくれたが、重量級のドノバンの一撃で沈んでしまった。

 まぁ、あれだ。決定力の違いだな。


 そんな感じで、第一回戦はサクサク進み、昼までには終わった。

 一試合、五分から十分。魔法も何も無制限なので、闘技スペースに炎が充満して、そこを覆うドーム状の結界がくっきり見えることもしばしばだった。


 昼に休憩を挟むかと思ったが、外の屋台などが常に売り込みにやって来るので、どうやら不要らしい。

 特等席に至っては、備え付けのメニューがあって、所望すれば即座にメイドたちが出してくれる。

 ……のだが、ルミナスは外の屋台のあれが食べたいなどと、無理難題を吹っ掛けてた。


 そして、いよいよ第二回戦。ドノバンの相手は誰だろう?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ゴーレムハーレムGO! 原幌平晴 @harahoro-hirahare

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ