第11話 コクられて酷な話

「ゴウラ様……」

 長い廊下の途中で声をかけれらた。

 朝、ルミナスを執務室まで送り届けて、鍛錬のために中庭へ向かう途中。

 振り向くと、ピンク髪のメイドが柱の影に立っていた。しかし、今日はメイド服ではない。

「ええと……たしかマルフィナと言ったっけ?」

 夜ごとの魔力調達ハーレムの一人だ。

「ああ……名前を覚えていただけるなんて光栄です」

 はにかみながら頬を染めるあたりは、外見年齢どおりの女子高生なんだが……初対面では俺の本体イチモツにやたら興味を示してたな。

 そして、今の服装だ。

「それは……私服なのかな?」

「はい。今日は非番なので」

 この城のメイドは五人ごとの班になっていて、二人一組で仕事をするため、余った一人が非番になるという。

 五日ごとに休めるなんて、良い職場だな。

 ……俺のゴーレムとしての雇用環境は、超絶ブラックだけど。


「なんだか、刺激的な服だな」

「そうですか? 私の種族では一般的なんですが」

 言葉や表情などはしとやかで清楚な感じだが、着ている服は……むしろ着ていないに近い。

 その場でくるりと回って見せてくれた。

 かろうじて大事な部分を覆っているだけの、マイクロビキニ。

 この世界の四季とか分らないし、この身体では暑さも寒さも関係ないが、彼女のおへそのあたりとか、冷えないのか心配になる。


 お尻から伸びる尻尾は毎晩見慣れてるが、背中の肩甲骨のあたりから生えてる蝙蝠のような翼は意外だった。

「君の種族って……」

「はい、サキュバスです」

 確か、男の精気を吸い取る魔族だよな。

 魔王のメイドがそれでいいのか?

 ……まぁ、今の魔王は女性だけど。

 きっと歴代の魔王は、魔力も精力も絶倫だったんだろう。


「ええと、何か話があったんじゃないかい?」

 要件は手短に。

 何しろ、今のシチュエーションは絵的にヤバイ。柱の影で、ほとんど全裸に近い美少女の前に立つ全裸の男。しかも、ナニをおっ立てて。

 どう見ても「おまわりさん、コイツです!」だ。


「あ、はい、あの……」

 なぜかマルフィナは真っ赤になってモジモジしだした。

 てっきり、身体が冷えて催してしまったのかと思ったのだが……。


「……お慕い申しております」

「え?」


 コクられてしまった。


* * *


 その日から、何かと非番のメイドに絡まれるようになった。

 どうやら、魔力調達ハーレム・メンバーの待遇改善を、ルミナスに訴えたのが効いたらしい。

 翌日から十人に増やされたので、一人当たりの魔力調達量を少し減らした。そして、魔力吸引する前のサービスを多めにしたところ、身体にかかる負担が大きく低下したという。

 それで好感度が上がったのだろうが、何よりも俺の素性についてルミナスが口を滑らしたらしい。

 あいつは、眠い時とか結構だらしなくなるからな。


 ゴーレムなのに自意識があり、異世界から転生してきた魂が宿っているイレギュラーな存在。加えて、元の世界の常識でふるまったら、女性の人権擁護になったらしい。


 モテ期だ。異世界に転生してモテモテ。定番だな。


 ……ただ悲しいのは、ゴーレムに性欲が無い点だ。


 好意を寄せられて嬉しくないわけがない。いや、凄く嬉しい。元の世界なんて、そんなのとは無縁だったし。純粋な好意を向けられたのは、彼女たちが初めてかもしれない。

 ルミナスは雇用主。というか、正確には所有者だ。ゼロから作ったのだから、この身体は彼女の所有物。しかし、心というか魂と言うか、俺の人格はそうではない。


 そんなわけで、非番のメイドたちと、毎日ちょっとした会話を楽しむくらいは、許されてしかるべきだと思う。

 夜の魔力調達でも、短時間に出来るだけ気持ちよくなれるよう、色々工夫してみた。そうしたテクニックは、ルミナスとの本番でも存分に駆使してるので、問題ない。

 この世界に動画があったら、売れっ子男優だな。いや、有閑マダム向けのホストか。

 ……それって、今の俺そのまんまだな。有閑未亡人魔王ルミナスの。


 折角、ハーレムでモテ期なのに。

 何だか、情けないイメージになってしまった。


* * *


「お許しを……どうか、もうこれ以上は……!」

 涙ながらに訴えかける乙女の柔肌に、荒々しい男の声と共に鞭が唸る。

 ビシッ!

 悲鳴をあげてよじる裸体に、荒縄が食いこむ。


「……こっちにも、亀甲縛りなんてあるんだ……」

 性欲ゼロの身でSMプレイを見るのが、こんなに苦痛だとは思わなかった。可哀想で思わず目を逸らしたくなる。

 今の身体に痛覚は無くても、前生の肉体にはあったからな。タンスに小指ぶつけたり。

 あの鞭、棘とかついてて、もの凄く痛そう。比べ物にならない。


「どうじゃ。これが人間界での、魔族の扱いじゃ」

 いつもはドヤ顔のルミナスも、今は険しい表情だ。

 さんざん責めさいなまれた挙句、女性の局部には禍々しい形状の器具が突き立てられ、呪文が唱えられる。

 苦痛の絶叫を上げて、女性は失神した。


 魔界に動画サイトは無いが、かわりにあるのが魔導鏡。この世界のどこでも映せる便利グッズだ。


 『大障壁』に『裂け目』が生じて発生した、人魔大戦。初戦ではヒト族側の大勝利となり、多数の魔族や魔物が捕われた。

 最初は普通に魔物などを使役していたヒト族だが、持ち前の探究心から魔力の研究が進み、魔石を利用した魔導具が発達したという。

 魔導の利用が進むにつれて魔力の需要が増え、こうして奴隷化した魔族の女性から搾り取るようになった。

 やってることは俺と同じだ。

 違いは、与えるのが快楽か苦痛か、それだけ。


「あんな風に、苦痛を与える意味はあるのか?」

「魔力を保持しようとする意志の力を削ぐことになるからの」

「なら、快楽でいいだろうに」

「一度に絞れる量が違うからの」

 効率的ってわけか。こっちも、魔力吸引で時短してるし。


 ちなみに、魔界から遠く離れた人間界の中心でも、魔族の女たちは体内で魔力を生み出すことができるらしい。これに対して、魔族の男は自力調達は出来ず、魔界に満ちる魔素を吸収・蓄積するか、女から与えてもらう必要がある。

 つまり、魔族が人間界に入り込むには女性同伴が必須となるわけだ。


「ひょっとして、魔王ベリエルは人間界に進軍して、返り討ちにあったのか?」

「そうじゃ。もうかなりの魔族の女が攫われておっての、彼女らを解放するのが妾たちの悲願じゃ」

 壁が破壊されて、襲い来る魔族軍。進撃の魔人か。

 そりゃ、駆逐したくなるだろうよ、人間としては。


 しかしその結果として、さらなる魔族女性が捕われ、奴隷化されているわけだ。

「この百年、力をため続けてきたのは、囚われの魔族解放がため。雌伏の時代だったのじゃ」


 ……その百年溜め続けた魔力で、俺の身体を作っちゃったけど、良いのか?


 いや待てよ。そっちが本当の目的か?

 そして、それがこの映像を見せた理由?


 いつもは軽口を言い合う仲のルミナスだが、言葉にするのをためらってしまう。

 メイドたちにも思慕されてるし、ドノバンやその部下とも親しくなった。俺としては、この世界では魔族の方に大きく気持ちは傾いている。

 だからこそ、逆からの、人間からの見方を見失うわけには行かない。


 戦争の道具にされて、人間を殺しまくるのだけは願い下げだ。

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