かごめかごめの街・仙台
寝る犬
かごめかごめ
宮城県、仙台市。
街の中心部にある
夜の街で仕事をしていることもあり、私は沢山の人と知り合う機会があるのですが、あの人のことは今でもよく覚えています。
Aさん、と呼ばれていたそのお客さんとは、その後も何度かお会いすることになるのですが、あれは初めてお店で会ったときのことでした。
◇
「これはこれは、素晴らしい眼をお持ちだ」
「あら、そうですか? ありがとうございます」
出会いばなに容姿を褒めてくるお客さんはたくさんおり、私もいつものように軽く受け流して水割りを作り始める。
「いや、本当に……そんな眼をしていると、色々面白いものが見えるでしょう?」
彼は水割りを受け取り、私の眼を覗き込んで笑う。
ごくりと喉を鳴らして薄いウィスキーを飲むと――
「――例えば、人ではないものとか」
そう言って、視線を私の後ろへと向けた。
慌てて振り返った私は、今日もそこに居る青白い顔の男を確認してAさんへと向き直る。
今まで私以外の誰にも見えなかったあれを見つめるAさんに、私は「見えるんですか?」と声を潜めて尋ねる。
もう一口水割りを飲んだ彼は「あなたほどじゃないけどね」と笑った。
「あの……あれは何なんです?」
「うん……ところで貴方は『かごめかごめ』と言う童謡を知っていますか?」
Aさんの話によると、『
私はその『神宮女』と言うモノの血筋であるらしかった。
「わたし達の住むこの仙台は、かの
「……はぁ、それとあれになんの関係が?」
「六芒星っていうのは、かごを編んだ模様を
「かごめ……」
「ええ、六芒星の記す内側の
「守られてるのなら、あんなモノ見えなくなりそうなものですけど……」
彼が空にしたグラスを受け取り、もう一杯水割りを作って手渡す。
面白そうに私の顔を見ていたAさんは、氷をカランと鳴らして、椅子に深く腰掛け直した。
「そこで『かごめかごめ』に戻ります。あの歌では『
私は後ろのあれへちらりと目を向け、街の中でも時々見る『人ではないもの』を思い出して身震いする。
真夏だと言うのに冷房の効いた店内は肌寒く、腕にはうっすら鳥肌がたっていた。
「そこで『
「死んでいるのに死んでいない……あれってやっぱり、幽霊かなにかなんですか?」
「まぁ有り体に言えばそんな存在でしょうか。霊とか
神様。と言う言葉に、私はほっと胸をなでおろす。
そんな私を意地悪げに見ていたAさんは、急に体を起こし、顔を近づけた。
「安心しちゃあいけません。神っていうのは、元々『人間を
Aさんに至近距離から見つめられ、背中にたくさんのあれの視線も感じながら、私の周囲から音が遠ざかってゆく。
身動きも取れない私に向かって彼が小さく何事かをつぶやくと、背中の視線は消え、店の中にざわざわする音も戻ってきた。
「――さて、なんの話でしたか?」
何事もなかったように、Aさんは水割りを飲み干す。
自分の仕事を思い出した私は、慌てて空のグラスを受け取った。
「そうそう『かごめかごめ』でしたね。最後の『後ろの正面だぁれ?』ですが、これは簡単、そのままの意味です。『
もう一杯、水割りを作ろうとする私の手を止めて、Aさんは立ち上がる。
水割りを作って、子供のように話を聞くことしか出来なかった私は、少し申し訳ないような気持ちになって彼を見送った。
「今日は私が消しておきました。しばらくは何も
「あの……ありがとうございます」
何が? などとは聞く気にもなれず、私はただ頭を下げる。
店の外はいつもの8月の仙台。
七夕祭りも終わり、そろそろお盆になろうかという仙台の、蒸し暑い夜だった。
「でもね、この『
Aさんは最後にそう言い残して、夜の街へと消えて行った。
扉一枚隔てて、店の中の
Aさんの背中が人混みに消えると、私は扉に手をかけた。
――びゅう
強い風が吹き、私は髪を押さえる。
頭の後ろに伸ばした手に、なにか柔らかい感触が触れた。
『後ろの正面……だぁぁぁぁあれぇぇぇぇ?』
◇
その日から、私は絶対に後ろを振り返らないようにしています。
気をつけてください。
たとえ『
この『
かごめかごめの街・仙台 寝る犬 @neru-inu
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