成実は不足を埋めたくて仕方ない

石和

プロローグ

 葦原あしはら、それは北端ほくたん央州おうしゅう南洲なんしゅう西州さいしゅうの主要四島およびそれに付随する島々からなる島国である。この国は神代の時代に神が島を作り上げ興したとされる。そのために頂点は古来から現人神の皇帝だ。代々央州の中心である京に住まい、神の血筋に連なる生き神として坐している。彼らは自ら政を行うことを好まず、臣民の中で最も力の強い者に任せた。そうして生まれた政を為す幕府、その最高権力を保有する将軍家は国のすべてを束ね、支配を継続してきた。


 しかし、どんなものであれ長く続けば弛みも綻びも発生するというもの。将軍家の支配能力は年を経るごとに減っていく。そんな中、覇権を取り損ねた臣民達は、弱い部分に付け入るべく力をつけていく。頭脳で勝ち上がって行く者、武力で立場を得て行く者、人や家によりやり方は様々であったが、確実に実力を伸ばし、勢力を強めていく。


 そして籐暦1455年――――葦原央州、東平とうへい地方で一戦乱の火蓋が切って落とされた。ついに東平の有力者 上郷廣重かみさとひろしげが反旗を翻し、将軍家の東分家を相手に戦を始めたのだ。


 きっかけは上郷廣重の父 廣貴ひろたかを将軍家の東分家が暗殺したことであった。上郷家は代々将軍東分家に仕える一族であったが、将軍家の威光が磨り減る中で力をつけ始めていた。それを懸念事項としつつ、長らくそのままでいた将軍東分家だったが、廣貴があまりにも力をつけた故に恐怖心を抱き、暗殺を決行する。その結果、殺すことには成功したものの、殺した事実の隠蔽には失敗した。父親を殺された若き嫡男は怒り、上郷家は将軍東分家に真っ向から勝負を挑み、戦乱を巻き起こした。東平地方は有力者が次々に将軍家へ反旗を翻し、状況は混沌に陥っていく。


 将軍家への反旗は止まらない。央州の中心である京でも将軍家に対立する家が現れた。東平地方の戦乱に呼応し、自らが覇権を手に入れるべく戦乱を巻き起こす。そうして次第に全国へ広がった覇権争いの戦の空気は、将軍家の威光の届きにくい北端、南洲、西州にも広がり、各地の有力者は古い時代に取り損ねた覇権を求めて立ち上がる。


 かくして群雄割拠の葦原は多くの国に分かれ、ただ一人の覇王を目指して有力者、もとい大名が日々戦いを繰り広げる。統率力、知略、政治力、武力、持てるすべてをつぎ込み競い合う。長らくの戦乱の後、小さきを飲み込み成長したある一家が覇権を得んとした。



 しかし、突如異能力という力が一部の人間に増えたことで葦原の地図は一気に書き換わる。



 異能力は属性を持ち、火、氷、風、雷の4種類あった。突如、何の前触れもなく属性を手にした者達は、戦場でその力の影響力を知ることになる。ある者は斬撃に付加して、別の者は武器に纏わせて使ったその力は大地を抉り、数多の雑兵を蹴散らした。文字通り一騎当千の力であった。彼らは異能力を手繰り、様々な戦場を自分で制圧していくようになる。


 さらに、異能力はある一家に味方せず、彼らが飲み込んだ小さき家のいくつかに目覚めた。服従を選んだ元大名たちに降って湧いた幸運の異能力。強すぎるそれが彼らに独立を決意させるのは容易だった。


 そうしてある一家に纏まるはずだった覇権はまた葦原のあちこちに分散する。また繰り返される戦乱の時代だが、大きさ関係なく異能力のある家が異能力のない家を飲み込んでいく、以前とは全く違う様相を示していくのだった。


 そんな時代に、新しく元服した者がまた一人。


亘屋成実わたやしげざねと申します。亘屋家の為、誠意尽くさせて頂きます」


 色素の薄い肌、茶色の短髪、同色の瞳…見る者の目を惹く出で立ちの少年は、様々な思惑を映す目に囲まれて、亘屋家の一門として戦国武将の一歩を踏み出した。

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